◉ビーストレポート 《アムールトラ》

それからキュルル達は、ホテルの跡地だけでなく山も海も…パーク中を探し回った。ラッキービーストにお願いして、各地のフレンズ達にも連絡をした。しかしビーストの行方は、全くつかめなかった。


ただホテルの瓦礫の上に、彼女の手枷だけが転がっていた。その内側をラッキーさんがスキャンしてみると、アムールトラというビーストの本当の名前が刻まれていることが分かった。


ラッキーさんの指示で、これをかばんさんが研究所のコンピュータに打ち込んでみると、彼女に関する様々な記録と映像が表示された。



アムールトラは、動物だった時にヒトに助けられた経験のあるフレンズだった。そのせいか、誰にでも分け隔てなく接する明るい子でみんなから好かれる人気者であったが、寂しがり屋で一人ぼっちが大嫌いという一面もあった。

そして彼女は、ヒトがいた時代に生まれた最後のビーストだった。


そもそもビーストとは、時々生まれる強い力を持ったフレンズの事だった。性格は血気盛んでヤンチャな子が多く、外見上の際立った特徴として、両手首に鎖の付いた厳つい手枷がはまっていた。


それに加えてひときわ大きな手をしていたアムールトラは、さぞかしわんぱくに育つのだろうと思われていた。しかし彼女は戦いが嫌いで、その恵まれた力をみんなを楽しませるために使っていた。


体を動かすのが得意で、誰かを笑顔にすることに大きな喜びを感じていたアムールトラ。パークのイベント会場では、彼女のショーがたびたび開催されていた。強靭でしなやかな体から繰り広げられる美しい演技の数々…、その素晴らしさに誰もが魅了され、惜しみない賞賛を送った。そんな彼女の夢は、サーカスのスターになる事だった。


そしてある日、一人のヒトの子と知り合った。容姿がキュルルとそっくりなその子は、いつもスケッチブックを持ち歩いていて、楽しい事があるたびに絵を描いては誰かにプレゼントしていた。そして2人は、何度も言葉を重ねるうちにすっかり仲良くなった。彼女とその子が遊んでいる姿が、記録映像にも何回も映っていた。


それを見た誰かがこう言った。

「アムールトラの大きな手は、戦うためのものじゃない。たくさんの小さな手を、残さず包むためのものなんだ」と。

彼女はみんなに温かく見守られながら、力の使い方を学び、心を育んでいった。大きな体と心を持ったパークで最も優しい騎士(ナイト)、それがアムールトラだった。


けれども彼女の夢は叶わなかった。ある日、アムールトラはあの子に自分の姿を描いてもらっていた。ペンの走る音に耳を傾けていると、ふと手枷が目に止まった。そして彼女はこれからの事をぼんやりと考え始めた。


アムールトラ『そろそろ私も一人前か…。そうなったらこの手枷ともお別れだな。そういえばこのおっきな手は拳を守る手袋で、力がコントロールできるようになれば小さくなるのではないか、ともいわれてたっけ。そうなったらどうなるんだろう、この子みたいに細かい事もできるようになるのかな?』


そうこうしているとあの子が顔をあげ、スケッチブックを彼女に見せた。するとそこには手枷の無い、華奢な手をしたアムールトラが描かれていた。


あの子「強くなったお姉ちゃんは、こんなだと思うんだ。」


アムールトラ「わぁ、素敵だね!」


あの子「この姿を見たら、きっと誰もがそう言うよ。待ってね、これからお姉ちゃんの周りに他のみんなを描くから。」


こう2人が笑い合っていると、突然セルリアンが現れた。そいつはその子を取り込んで女王セルリアンとなると、今のサバンナに当たる場所を拠点とし、セルリアンを統率して全世界を保存し、永遠に再現しようとした。


だが、そうはさせまいとパーク中のフレンズが必死に戦って、なんとか女王を追い詰めた。すると女王は、そこにいたフレンズを全て吹き飛ばそうと大爆発を起こした。そのままだったら、みんなやられてしまっただろう。


しかしアムールトラが立ちはだかり、全けものプラズムを放出してフレンズ達を守った。戦いに使える分だけではない、体を構築する分も含めてだ。彼女の負担は想像を絶するものだったが、それだけみんなを守りたいという思いが強かったのだ。

そして爆発が収まった後みんなが見たものは、気絶したあの子と女王のコア、そして全身がぼろぼろで、息も絶え絶えなアムールトラだった。


フレンズ達はアムールトラに駆け寄ると、残った力を分け与えた。それにより彼女はなんとか一命を取り留めたものの、そのまま長い眠りについた。一方助けられたあの子は、医療機関に運ばれて意識を取り戻し、天寿を全うした。


また当然の事ながら、女王のコアは排除されることとなった。しかし残った者達がどんなに頑張っても、コアを破壊することはできなかった。そして不思議な事に、アムールトラの体は、まるで根が生えているかのようにそこから動かせなかった。もしかすると、こうして眠っている間も、彼女は女王からみんなを守り続けているのかもしれない。


いつか女王が動き出す時、アムールトラも目覚めるのではないか…、そう考えたヒト達は、この事をいつまでも語り継ぐための記念碑として、コアとアムールトラの周りに施設を建築した。さらに万が一建物内部で異変が起こった場合に備えて、監視装置と頑丈な檻を用意して彼女を守った。




博士「ヒトの話は長ったらしいのです、まったく。」


助手「『言うは易く伺うは難し』…。お前達、ついてきてますか?」


サーバル「へ〜???うん、分かんないや!」


アライさん「全く分からないのだ〜、アライさんにも分かるように言って欲しいのだ〜!」


フェネック「よーするに、ビーストはアムールトラって名前で、とってもいいフレンズだったってコトだよ〜。」


アライさん「なるほどなのだ!でもどうして誰も覚えていないのだ?」


かばん「パークからヒトがいなくなって伝えるものも無くなって、またさらに長い時間が流れた。そしてフレンズ達は、いつの間にかそのことをすっかり忘れてしまったんだと思う。…あれ、これは?」


その映像をよく見てみると、研究室の壁に見慣れないドアが映っていた。そしてかばんさんがそこを調べてみると、壁の一部が開いて隠し部屋が現れた。その中に入ってみると、かばんさんの帽子の羽に反応して部屋の電源が入った。


そこには壁一面の機械とモニター、そして月の周りを周回している人工衛星に関する資料があった。それによると、サンドスターは月の磁気を受けて変質するため、衛星を使ってこの星に届く量の調整を行なっていたらしい。


隠し部屋の電力が回復した事で人工衛星も再び活動を始めた。これによりサンドスターの性質が戻った事で、徐々にパークの地形も元に戻り、各地の水が引いて水没していた施設がまた使えるようになり、フレンズの野生解放が復活し、ヒトの輝きから強力なセルリアンが発生する事は無くなった。

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