◉孤高の騎士

ホテルの屋上で、フレンズ達とフレンズ型セルリアンの激しい戦いが繰り広げられた。しかし今度の相手は強力で、フレンズ達はジリジリと追い詰められていった。



一方船の上では、イリエワニ型のセルリアンがみんなに襲い掛かっていた。すると上空から、博士が誰かを抱えながら急降下してきた。その誰かは大きな両手を構えると、漆黒のかぎ爪を勢いよく閃かせた。


ヒョウッ!

鋭い風切り音と共に2人はそのまま急上昇し、屋上へと飛んでいった。そしてみんなが驚いて顔を上げる中、一瞬でバラバラに切り裂かれたイリエワニ型がきらめきながら消えていった。



屋上にてカラカルはキュルルを守りながらチーター型と戦っていたが、一瞬の隙を突かれ吹き飛ばされてしまった。そしてチーター型の巨大な一つ目がギロリと動き、キュルルの方を睨んだ。

カラカルは何とか起きあがろうと、必死にもがいていた。


カラカル「逃げ、て…、キュルル…!」


その叫びが終わらないうちに、チーター型はあっという間にキュルルとの間合いを詰めると、振りかぶった爪を勢いよく振り下ろした。

するとキュルルの周りから音が消え、禍々しい5本の爪がまるでスローモーションのようにゆっくりと目の前に迫ってきた。全身から冷や汗が吹き出し、心臓がドクドクと大きな音を立てている。しかし感覚はやたらと研ぎ澄まされているのに、体が全く動いてくれない。とてつもない恐怖に耐えきれなくなり、彼は思わず目を閉じた。


カラカル「キュルルー!!!」


バキャァァン!

ところが大きな音と共にチーター型の腕が根本からちぎれ、勢いよく回転しながら吹き飛んでいった。キュルルが恐る恐る目を開けると、目の前にオレンジ色の長い髪をなびかせた大きなフレンズが立っていた。

キュルル「ビースト⁉︎」


ビーストがキュルルの前に立ちはだかり、右腕で攻撃を弾いたのだ。そしてそのまま腕を横に振ると、チーター型の体が紙細工のように裂け、きらめきながら粉々に砕け散った。

それが消え去ってゆく様を、彼女はじっと見つめた。

ビースト『何度目だろう…、この光を見るのは…。戦って戦って、戦い続けてきた…、これが使命だと思って…。』


上空では、ビーストを運んできた博士が申し訳なさそうな顔をしながらこう呟いていた。

博士「すまないのですビースト…。でも今だけは、我々に力を貸して欲しいのです!」


きらめきの向こうでは、おびただしい数のフレンズ型セルリアンが蠢いている。

ビースト『どんなに痛くて怖くても、これを乗り越えた先に何かがあると信じて…。けどっ…、私を待っていたのは戦いだけっ…!“戦い”がっ、私の生きる場所なんだぁっ!!』


ビースト「ウオォォォーン!」

ビーストが雄叫びをあげると、頭に紋章が輝いた。そして彼女は戦場のど真ん中へおどり込むと、両手の爪を閃かせて次々とフレンズ型セルリアンを倒していった。


先程のチーター型の腕が床に落ちて弾ける頃には、すでにセルリアンの半数がビーストによって蹴散らされていた。残りも彼女に恐れをなしたのか、遠巻きに見つめているだけで向かってこない。

それを見て、ビーストの周りにフレンズ達が歓声をあげながら集まってきた。しかし彼女は唸り声をあげ、牙を剥き出してフレンズ達に襲いかかってきた。


ゴリラ「こっちに向かってくるぞ!」

ヒョウ「やっぱり見境なしや!」

慌てて逃げ出すフレンズ達。


それを見た博士は困惑した。

博士「どうしたのですビースト⁉︎やめるので…ん⁉︎」


その時、博士はある事に気づいた。そしてみんなに向かって叫んだ。

博士「お前たち、早くここから飛び降りて船に乗るのです!跳べない子には手を貸すのですよ!」


フレンズ達が屋上から次々と飛び降りてゆく。それを見て、ビーストは悲しそうな顔をしながら彼女達に背中を向けると、目の前にいる残りのセルリアンの群れを睨みつけた。


彼女の頭の中は、全てを破壊したいという衝動で黒く染まっていた。その中で、ほんのわずかに残った理性がこう呟いた。

ビースト『そうだ…、早く逃げろ。お友達なんて所詮うたかたの夢。私は…、ずっと一人だった!一人でパークを守り抜いてきたんだ!』


破壊の悦びに体と心が打ち震えた。そして、歪んだ笑みを浮かべているビーストの全身が黒い輝きで覆われてゆき、握りしめた拳がバキバキと音を立てた。

ビースト『これで…目につくもの全てを引き裂くことができる。まるで、花を摘むヨウニ!愉シイナァァ!!!』


すると背後から声がした。

?「だめだよ!」

そして誰かが後ろからビーストを抱きしめた。彼女が驚いて振り向くと、キュルルが腰にしがみついていた。


彼はビーストをじっと見つめると、涙ながらに大声を上げた。

キュルル「置いてくなんて嫌だよ!どうして一人になろうとするの?君はお友達(フレンズ)で、群れの仲間なんだよ!」


その温もりと眼差しが、彼女の頭の中から闇をかき消した。全身を覆っていた黒い輝きが霧散してゆく。


見ると、彼の足はガクガクと震えていた。無理もない、全く戦いを知らないヒトの子供が、セルリアンの群れと猛獣のようなフレンズが相対している所へ飛び込んできたのだから。

ビーストはキュルルを慈しむような表情で見つめると、左手でポンと彼の頭を叩いた。


キュルル「わかって…くれたの?」

キュルルは僅かに微笑みながら、ビーストの腰から離れた。


しかしビーストは左手で彼の肩をつかむと、右手を股の間に差し込んだ。そして彼を軽々と持ち上げると、勢いよく船の方向へ放り投げた。

キュルル「なっ…⁉︎」


カラカル「キュルル⁉︎」

それを見たカラカルは、慌ててキュルルを追いかけた。


キュルルは空中で逆さまになったまま、呆然とビーストを見つめていた。

キュルル「なんでだよビースト!」


ビーストはうつむいていたが、頬が涙で濡れていた。

ビースト『ごめん…ごめんよ…。こうする事が…、こうして自分の大好きなもののために命をかける事が…、ずっとパークを守ってきた…、私の使命なんだよ!!!』


それからビーストはキュルルに背を向けると、大きな右手の指で不器用なピースサインをした。


キュルル「いやだあーっ!!!!」

そしてキュルルは、泣き叫びながら屋上から船へと落ちていった。

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