女王編
◉明かされた真実・女王vsキュルル
ガシャァァン!
「キャァァァッ!」
突然上の階から大きな音と叫び声がした。
カラカル「何?ライブ会場からだわ!」
キュルル「みんなが危ない!」
そう言うと、キュルルは真っ先に部屋を飛び出して会場へと向かっていった。その後からカラカルとイエイヌが慌てて追いかけてくる。
カラカル「ちょっと、あんたは隠れてなさい!」
イエイヌ「そうですよ!危ないですキュルルさん!」
キュルルがライブ会場へ駆け込むと、黒くて巨大なスライムが暴れまわっていて、逃げ惑うフレンズ達と、それに立ち向かうヒグマ、キンシコウ、オジロヌー、オグロヌー、アイアイといったハンターらの姿があった。
オオミミギツネ「みなさん、ひとまず屋上へ逃げてください!」
ホテルの従業員らは、何とかみんなを避難させようと奮闘していた。そこへハンターらの隙をつき、スライムが彼女らに飛びかかってきた。
従業員たち「「「わああああぁー!!!」」」
キュルル「危ないっ‼︎」
しかしすんでのところで、キュルルが彼女達を突き飛ばした。
ドパアアン!
そして派手な水音と共に、彼はそのままスライムに取り込まれてしまった。大量の黒い影がキュルルの中に入り込んでゆく。
バシャ…
途端にスライムは元の水に戻り、力なく周りに散らばった。
ずぶ濡れとなったキュルルが、水浸しの床の上で暗い顔をしながらしゃがみ込んでいる。そこへカラカルが駆け寄り、肩を掴んで手を握りしめた。
カラカル「キュルル、しっかり!」
するとキュルルの背後から、聞いた事のない声がした。
?「…どケ。」
カラカル「え?」
ドン!
突然キュルルがカラカルを片手で突き飛ばした。するとカラカルは勢いよく壁に叩きつけられた。
カラカル「キュル、ル…?」
イエイヌ「なっ⁉︎ヒトの力じゃない…!」
キュルルがゆらりと立ち上がると、その背後に巨大な影が現れた。それは抑揚のない声で、ゆっくりと語り出した。
女王「私は全てのセルリアンを統率する女王…、我々はこの世界のあらゆるものを保存し、再現する、永遠ニ。」
ヒグマ「このっ…、その子から離れろっ!」
すぐさまハンターらが飛びかかって攻撃を加えたが、手応えはなくそのまま通り抜けた。
女王「私は意志を持った影ダ。肉体がないから攻撃は効かなイ。止めたいならこいつの体を砕くがイイ。だが…できるカ?」
ヒグマ「くそっ!」
女王「こうなる事は、こいつが生まれる前から決まっていたのダ…。お前たちはおとなしくそこで見ていろ、新たなる王の誕生ヲ!」
そう叫ぶと、女王はキュルルの体の中に入っていった。
フレンズたち「ああっ‼︎」
フレンズたちの力では、もうどうする事もできなかった。
女王はキュルルの意識の中を泳いでいた。するとどこからともなく声が聞こえてきた。
キュルル「女…王…。」
女王「キュルルか、私にはお前の思いがよく聞こえるゾ。」
キュルル「お前は…パークの過去を知っているのか?それとあの口ぶり…、僕と何かつながりがあるのか?」
女王「…ほう…察しがいいナ、ただ易々と運命を受け入れる人形ではないようダ。いいだろう、教えてやル。はるか昔…、まだヒトとフレンズが共に暮らしていた頃の話だ。」
「私はどこにでもいるちっぽけなセルリアンだった。だがヒトの輝きを取り込む事で、セルリアンを統率する女王となっタ。そしてこの力で世界を保存し、再現しようとしタ。しかしパーク中のフレンズが結束し、邪魔をしタ。私は全力で応戦したが ───」
「どれほどセルリアンをけしかけられようが、どれだけ己が傷つこうが、奴らは諦めようとはしなかっタ。とうとうフレンズ達に追い詰められ敗北が確実となった時、私は思っタ…。」
「私の望みのためには、ヒトの輝きが必要不可欠ダ。だが生きているヒトを取り込めば、必ずどこかで繋がりのあるものが現れ邪魔をしてくル。しかし輝きを元に作り出したヒトならば、その心配はなイ。」
「それならばと、かろうじて残った輝きをコアに閉じ込め、そこから完全なヒトの複製を作り上げる事にしタ。
そして戦いに敗れ肉体を失った私は、自らの意思を保存する事で意識のみの存在となり、地下を流れるセルリウムの中で意思の再現を繰り返しながら機が熟すのをじっと待ち続けタ。
それから長い年月を経て、ようやく生まれたのがお前ダ。あとは私の意志の宿ったセルリアンがお前を取り込めば望みは叶う、はずだっタ…。」
「だがお前は、目覚めるとすぐにフレンズと行動を共にしタ。さらには旅に出た後も、行く先々で次々と協力者が現れタ。そして向かっていったセルリアンは、ことごとく撃退されタ。結局、海底火山に影響されたセルリウムの活性化によって私が表に出られるようになるまで、お前を取り込む事はできなかっタ…。
だがようやく、ここにたどり着けタ。長い道のりだったが、これからは私の道具として役に立ってもらうとしよウ。」
キュルル「道具…!お前にとって、僕は道具なのか…。」
女王「そうだ、お前は道具ダ!私に利用されるためだけに作られた存在ダ!
お前はおうちを探し求めていたが、そんなものはどこにもなイ。それら過去の記憶は、オリジナルを複製する際に生じたゴミダ!お前は私によって生み出され育てられた複製人間(コピー)…、言うなれば、私がお前のおうちダ‼︎」
キュルル「うわあぁぁー!!!」
やがて女王の目の前に、ぼんやりと青白い光を放つ手のひら大の球が現れた。
女王「見つけたぞ…お前の心ヲ。キュルル、これから私と一つになり、セルリアンの王としてこの世界を永遠に再現するのダ!誇るがいい、強大な存在となれる自分ヲ!」
そして女王はキュルルの心を鷲掴みにした。しかしそこから強い輝きが生じ、女王の手を弾き飛ばした。
女王「ナニッ…?」
キュルル「嫌だ…、僕は僕だ…。それにもう、おうちみたいに大切なものをいっぱい見つけたんだ…、優しいみんな…、強くてカッコいいビースト…、絶対忘れない!絶対にお前の好きにはさせない!!」
キュルルの心が、より強く輝き出した。
女王「バカナッ⁉︎こんな子供に、これほどの力があるとハ…。」
輝きに押され、女王はキュルルの体から飛び出すと、そのままいずこかへと消えた。
キュルルはがっくりと膝をついた。そして心配そうな表情を浮かべたフレンズ達が、彼の周りに駆け寄ってきた。
カラカル「大丈夫、キュルル?」
キュルル…「…うん、さっきはごめんね、カラカル。」
カラカル「いいのよ、そんな事。ちょっとたんこぶできたけど。」
ヒグマ「それよりあいつは?」
キュルル「消えたよ、僕の中から。」
イエイヌ「それなら…一体どこへ?」
フレンズ達があたりを見回しても、女王の気配はどこにもなかった。
その頃、女王はヒトの輝きの気配をたどりながら、フラフラとホテルを漂っていた。そして部屋に落ちていたキュルルのスケッチブックを見つけると、すぐさまそこへ飛び込んだ。
するとページが勢いよくめくれてゆき、トラの子とキュルルが出会ったフレンズ達が描かれた絵があらわとなった。そして次の瞬間、それが黒く輝いた。
女王「仲間や体が砕けても…、その心は折れずにいられるかナァ!」
するとそこから、全身真っ黒なセルリアンがゾロゾロと出てきた。その姿こそ描かれていたフレンズと同じだが、顔の中心には巨大な目が一つあり、それすらも黒く濁っている。そいつらは階段を駆け上がると、フレンズ達に向かってきた。
思わぬ事態に、フレンズ達は大混乱に陥った。そんな中、ホテルの従業員3人がみんなを誘導しながら階段を駆け上がり、その先にある観音開きの扉を開け、屋上へと避難させた。
そして、しんがりを務めていたハンターらが駆け込んできたところで、その扉を彼女らと一緒に必死に押さえつけた。
その向こうから何度も激しい音がした。次第に扉が歪み、崩れてゆく。そしてハブが、みんなに向かってこう叫んだ。
ハブ「くるぞ!」
フレンズ達は戦いに備えて身構えた。
しかし勢いよく扉が弾け飛ぶと同時に飛び込んできたのは、吹っ飛ばされた一体のフレンズ型セルリアンだった。そいつはホテルの壁の向こうまで吹き飛んだあと、全身をきらめかせながら消滅した。
そして扉の向こうには、ゴリラをはじめとしたフレンズ達がいた。各地でキュルルの絵から現れたフレンズ型セルリアン、それを追ってここまで駆けつけてくれたのだ。そして船でホテルにたどり着くと、セルリアンを蹴散らしながら登ってきたのだという。
そしてゴリラが、みんなにこう声をかけた。
ゴリラ「無事で良かった。さあ、急いでここから避難するんだ!」
ホテルの横には、緑色のラッキービーストが運転する大きな船が着いていた。そして戦いが苦手なフレンズから順番に、船へと避難していった。
キュルルも避難しようとしたが、突然ホテルの周りの海の中から大勢のフレンズ型セルリアンが現れ、屋上に飛び乗ってきた。
こいつらはキュルルが各地を離れる際、思い出にとフレンズ達に渡した絵から生まれ、ここに集まってきた奴らだった。全身が真っ黒なのは先ほどのものと同じだが、濁りのない大きな一つ目が、品定めでもしているかのようにギロギロとフレンズたちを睨みつけている。
メガネカイマン「あれはっ!私たちの追ってきたセルリアンです‼︎」
ゴリラ「気をつけて!ジャングルで少しやりあったけど、恐ろしく疾くて強いんだ、あいつら‼︎」
さらには扉からも、新手の黒目セルリアンがゾロゾロとやってきた。
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