◉生きてた!

ビーストの全身を覆っていた白い輝きが、次第に黒く変わってゆく。戦いは終わったというのに、衝動が収まらない。

ビースト『まだ暴れタリナイ…。』


彼女は歪んだ笑みを噛み殺しながら、疼く体をなんとか抑え込んでいた。


そこへイエイヌがやってきて、親しげに話しかけてきた。

イエイヌ「あんなに強いセルリアンを一瞬で…、本当にありがとうございます!私、以前にもあなたに助けてもらった事があって、ずっとお礼を言いたかったんで…。」


ペシッ

イエイヌ「ふぎゃん⁉︎」


しかしビーストは、反射的に爪を振るってイエイヌを払い除けてしまった。イエイヌはびっくりして、そのまま尻餅をついた。


ビースト『!!!』


途端に紋章が消え、黒い輝きが吹き飛んだ。彼女は真っ青な顔をして、全身を震わせながらイエイヌと自分の爪をじっと見つめた。

ビースト『私、今、とんでもない事を…このままじゃ、本当にフレンズをっ…!!!』


とうとう恐れていた事が起こってしまった。ビーストは今にも泣き出しそうな顔をしながらみんなに背を向けると、大きな叫び声をあげながらがむしゃらに駆け出した。


ビースト「グワアアアー!!!」

絶叫がどんどん遠ざかってゆく。そのまま彼女はどこかへ走り去ってしまった。


一方、それを見て呆気に取られたイエイヌは、ポカンとしながらしゃがみ込んでいた。するとそこへキュルルが慌た様子でやってきて、彼女に手を差し伸べた。

キュルル「イエイヌさん、大丈夫?」


イエイヌはその手を取ると、しっかりとした足取りで立ち上がった。

イエイヌ「…ええ、平気です。ちょっとビックリしただけ…。私よりもみなさんは大丈夫ですか?ひとまず隣の家で休んでいってください。」


イエイヌの言葉に甘えて、キュルル達は壊されてしまったおうちの隣の家で休むことにした。その中の作りはイエイヌのおうちと似たようなもので、大きなベッドとテーブルと椅子がいくつか、引き出しのついた棚、それとキッチンと食器棚がある。


そしてひどく疲弊していたカラカルはベッドに横になり、イエイヌとサーバルはその周りの椅子に腰掛けた。しかしキュルルには、先程から気になっていたことがあった。


キュルル『イエイヌさん、鼻の頭が擦りむけちゃってる。』

キュルルは棚まで歩いてゆくと、引き出しから絆創膏を取り出してイエイヌの顔に貼ってあげた。


イエイヌ「ありがとうございます、エヘヘへ。」

イエイヌは構って貰えるのが嬉しくて、にこにこしながら尻尾を振っている。


キュルル「ううん、僕にはこれぐらいしか…ごめんねみんな、なんにもできなくて。」


イエイヌ「そんな事ないです!あんなセルリアン相手に一人で向かってゆくなんて、凄いです!」


カラカル「でも、あんまり無茶しないでね。逃げるのだって大事なんだから。」


サーバル「こーゆー事は、私たちに任せといて!…まぁ、いっつも全部上手くいくってわけじゃないけど。」


キュルル「ありがとう。それにしても…、ビーストはどうしちゃったんだろう?」


カラカル「テレ隠し…じゃないわね、あの顔は。」


イエイヌ「私が悪いんです、様子が変だったのに近づいてしまって…。たぶん私を襲うつもりはなかったんだと思います、全然力が入っていませんでしたし。」


サーバル「今度会ったら、誰も怒ってないよーって教えてあげようよ!」


キュルル「…うん、そうだね!」


今夜はみんなで一つのベッドで眠ることになり、カラカル、キュルル、イエイヌ、サーバルと並んで横になった。キュルルは目を閉じると、ビーストの事を思い浮かべた。


キュルル『セルリアンって、あんなに強くて怖かったんだ…。それとずっと戦ってきたビーストって、やっぱり凄いや。いきなりイエイヌさんのおうちが壊されたのはびっくりしたけど、あの子は僕たちを守ろうとしてくれてたんだ。今度会ったらきちんとお礼を言いたいな。』

そしてキュルルは眠りについた。


みんな疲れ果てていたため、翌日目を覚ました時には太陽が高く登っていた。

イエイヌが用意してくれた朝食を済ませお茶を飲みながら話をしていると、突然キュルルの左腕のラッキービーストが、かばんさんの声で喋り始めた。

かばん「…しもし、キュルルさ…、ザッ…こえる?」


イエイヌ「ひゃんっ⁉︎」


カラカル「…かばんさんっ⁉︎」


キュルル「かばんさん⁉︎無事だったんですか⁉︎」


サーバル「かばんさん⁉︎ホントにかばんさんなのっ!!?」


かばん「…ホテル…ザッ…き…て…ザザッ…パークの危機…ザザザッ」

雑音がひどくてうまく聞き取れない。キュルルはかろうじて聞こえた言葉を頭の中で組み立てると、こう答えた。


キュルル「パークの危機ですか?分かりました、僕たちもホテルに向かいます!」


しかしかばんさんからの答えはなく、雑音だけが続いている。それでもサーバルは、ラッキービーストに向かって必死に呼びかけ続けた。

サーバル「かばんさん!何か言ってよ、かばんさん‼︎」


しかし、なにも返事が返ってこないまま通信が途絶えた。

サーバル「かばんさん…。」


しょげているサーバルの背中を、カラカルがポンと叩いた。

カラカル「無事でよかったじゃない!きっとあんたの思いが通じたのよ!」


キュルル「そうだよ!ホテルに行けば、元気なかばんさんに会えるよ!」


サーバル「うん…!よかった…、よかったよぉ…!」


かばんさんの無事を知り、3人は涙ぐんだ。

今ホテルでは、かばんさん達も協力したというペパプライブが行われる事になっている。特に今回は、夜通し続く特別なライブが開催されるのだ。

パークの危機がなんなのかは分からないが、そこでかばんさんに聞けば教えてくれるだろう。キュルル達はホテルに向かうことにした。また彼らの事を心配したイエイヌも、一緒に行く事となった。

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