イエイヌ編

◉おかえりなさい!

キュルル達3人は、トラクターに揺られていた。すると、キュルルの腕のラッキービーストがこう言った。

腕ラッキー「トラクターノ電池ガ、ナクナリソウダヨ。」


キュルル「電池って?」


腕ラッキー「トラクターノゴハンダヨ。コレガナクナルト動ケナインダ。コノ先ニ充電デキル場所ガアルンダケド…。」


するとトラクターが止まり、ガックンと揺れた。牽引されていたトレーラーに座っていたカラカルは、はずみで後ろ向きにすっ転び、トレーラーの底にゴン!と頭をぶつけた。

腕ラッキー「アワワワワ。」


カラカル「あたたたた…。」


キュルル「大丈夫っ⁉︎」


そしてサーバルが屋根から飛び降りてきた。

サーバル「なになにー、疲れちゃったの?押せばいいのかな?」


キュルル「え?ど、どうしよう。」


すると、トラクターの鼻の部分から電池が飛び出してきた。

腕ラッキー「コレガ電池ダヨ。持ッテイッテ。コノ先ノ施設デ充電ガデキルヨ。」


電池はサーバルが運ぶこととなった。そこからしばらく歩くと白い石でできたゲートが見えてきて、その向こうには動物の顔を模した形の家々が並んでいた。


キュルル「施設ってこれ?」

腕ラッキー「モウ少シ進ンダ所ダヨ。」


ゲートをくぐって歩いてゆくと、熊の顔をした家に、一人のフレンズの姿があった。その子は全身薄い灰色だが、ところどころ白い模様がある。少し吊り上がった目は、右が水色で左が黄金色のオッドアイ、ピンと尖った耳にショートヘア、袖を捲ったブレザーに短いスカートをはいている。


その子はお庭の花壇に小さなジョウロで水をやっていたが、キュルル達に気がつくと持っていたジョウロを取り落とした。そして、それが地面にぶつかる前にキュルルに飛びついてきた。

?「おかえりなさい!会いたかったぁ〜!!!ああ〜、懐かしいヒトの匂い!この日をどんなに待っていたかぁぁ〜!!」


いきなり押し倒されたキュルルは慌てふためいた。

キュルル「ちょ、ちょっと待って、君だれっ⁉︎」


イエイヌ「私は、イエイヌです〜!ヒトに会えるのをずーっと待ってたんです!」

イエイヌと名乗ったフレンズは、そのまま全身を喜びで震わせながらキュルルをガッチリと抱きしめている。事情はさっぱり飲み込めないが、えらい勢いだ。


するとカラカルが、両手でイエイヌの首根っこを捕まえてどうにかキュルルから引き剥がした。

カラカル「よく分かんないけどっ、ちょっと、落ち着き、なさい、よっ!」


イエイヌ「ふえぇ〜、もうおしまいですかぁ?いやだぁ〜!」

イエイヌは手をバタつかせながら、懸命に踏ん張っている。


そしてサーバルがキュルルを助け起こした。

サーバル「だいじょうぶ?」

キュルル「うん、びっくりしただけ。」


それからキュルルは、ジタバタしているイエイヌに挨拶をした。

キュルル「僕はキュルル。おうちを探して、サバンナからここまで来たんだよ。」


イエイヌ「おうちを…、なら、ここがあなたのおうちです!」


自己紹介を済ませると、3人はイエイヌのおうちに招かれた。その中には、テーブルや食器棚など、かつてヒトが使っていたであろう家具がたくさん置かれていた。

壁には額縁に入れられた一枚の絵が飾られていた。パークのゲートの前で、ヒトとフレンズが笑いながら並んでいる。その中に、キュルルとよく似たヒトが描かれていた。


イエイヌ「さあみなさん、お疲れでしょう、ゆっくりしててくださいね。」

そう言うと、イエイヌはホットプレートでヤカンにお湯を沸かし、カップに温かいお茶を淹れるとみんなに振舞った。


一口飲んでみると、爽やかな味と香りが口いっぱいに広がった。

キュルル「わぁ…、とっても美味しいよ!」


イエイヌ「喜んで頂けて嬉しいです!」


サーバルは、カップの横に置かれていた細長いものをつまみ上げた。

サーバル「このヒョローンとしたの何?」


イエイヌ「スプーンというものです。指を使わなくてもお湯をかき混ぜる事ができるんです。」


カラカル「へー、ヒトっていろいろ面白いものを思いつくのね。あんたはヒトと暮らした事があるの?」


イエイヌ「動物だった頃のぼんやりとした記憶ですが、私は昔、ここでヒトのご主人と暮らしていました。でもある日突然いなくなってしまって…。それでもいつか帰ってくるのではないかと、フレンズになっても一人でお留守番を続けていたんです。

そして、キュルルさんが絵に描かれているヒトにそっくりだったので、ようやく帰って来てくれたと思ったんです!」


それを聞いて、キュルルは申し訳なさそうな顔をした。

キュルル「ごめんねイエイヌさん、僕はここの事を全然覚えていないんだ。だから、ここは僕のおうちじゃないと思う。」


イエイヌ「え⁉︎…もしかして隣の家でしたか?」


キュルル「ううん…。この辺りの事もなんにも思い出せないんだ。だから…ごめん。」


するとイエイヌは、目と耳を伏せしょんぼりとうなだれた。

「そう…ですか…。私の勘違いなんですね、残念です…。」


カラカル「ずっと一人で?どこかへ行ってみたりとか、お友達が来てくれたりとかはないの?」


イエイヌ「はい…。」


サーバル「じゃあ私達が、初めてのお友達だね。これからよろしくね、イエイヌ!」


それを聞いたイエイヌは、パッと明るい顔になった。

イエイヌ「わぁ、ありがとうございます!」


キュルル「よろしくね、イエイヌさん!」

キュルルは握手をしようと手を差し出した。すると、なぜかイエイヌはペタンと床に座り軽く握った手をキュルルの掌に乗せると、尻尾をブンブンと振りながら幸せそうな顔をした。全身が歓喜で震えている。


キュルル「えーと、イエイヌさん?」

イエイヌ「久しぶりにできて嬉しいんです!」

カラカル「そうなの?」


それからカラカルとサーバルも手を差し出すと、やっぱり同じような反応が返ってきた。

カラカル「えーっと…?」

サーバル「面白い子だね!」

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