◉よーい、スタート‼︎
キュルルは車に乗り込むと、双眼鏡でみんなの位置を確認した。そして第一走者の2人にこう呼びかけた。
キュルル「準備できたみたい。そろそろ始めるよ!」
カラカル「はぁ…、あの子、大丈夫かなぁ。」
どこか上の空なカラカルの隣で、ロードランナーがかかとでトントンと地面を叩いた。
G「なあ、協力してくれてありがとな。それと、お前の速さは認めるけどさ、よそ見してたら負けるずぇ?」
それを聞いたカラカルは、両手で頬をパンッと叩くと、気合を入れ直した。
カラカル「んっ。…誰に向かって言ってるの?絶対に負けないわ!」
キュルル「それじゃあいくよ2人とも。よーい…、スタート!」
キュルルの合図と同時に、2人は猛然と駆け出した。ロードランナーはスタートこそ速かったものの、最高時速80㎞を誇るカラカルのダッシュに、あっという間に追い抜かれてしまった。
G「ひょー、やっぱはっええなぁ!けど今は、ちょっとでも早くプロングホーン様に棒を渡すのが、私の役割だっ‼︎」
そしてニッと笑ってスピードを上げた。それを見たキュルルは、車に揺られながらこう呟いた。
キュルル「うわぁ…、2人とも凄いや…。」
カラカルは息を弾ませながら、プロングホーンの隣を駆け抜けた。抜きざまに顔を見ると、彼女は腕組みをしたまま微動だにせず、わずかに笑みを浮かべながら真っ直ぐ前だけを見ていた。
カラカル『こっちをチラッとも見ようとしない…、凄い集中力と自信、厄介ね。』
次の走者であるサーバルが目の前にいる。ついフッと気持ちが緩んだ次の瞬間、背後から凄まじい気が迫ってきて、カラカルはゾクッと体を震わせた。
ロードランナーから棒を受け取ったプロングホーンが、驚異的なスピードで追い上げてきたのだ。その威圧感は、朝危うくぶつかりそうになった時を遥かに凌駕していた。
カラカルの全身の毛が逆立った。そして死に物狂いでスパートをかけると、サーバルに棒を託した。
カラカル「お願いっ‼︎」
サーバル「任せてっ‼︎」
そう言って、サーバルが駆け出した。
そのすぐ後に、プロングホーンがカラカルの横を疾風のように駆け抜けていった。
カラカル「なにあれ…、ホントに今朝と同じフレンズなの…?」
サーバル「みゃみゃみゃみゃみゃみゃみゃ…!」
サーバルは全力で走っていたが、後ろから地鳴りのような音が迫ってきた。振り向くと、プロングホーンが鬼のような形相で追いすがってきている。
サーバルは動揺し、すっかりペースを乱されワタワタと走り出した。そして息が上がって足が重くなってきたところで、あっという間に抜かれてしまった。
その時、プロングホーンが振り向いて、サーバルに笑顔を向けた。額には汗がにじんでいたが、爽やかで清々しい、まるで「楽しかった、また走ろうな!」と言っているかのような顔だった。
サーバルはへたばりながらもこう思った。
サーバル『ふぇ〜、めっちゃ楽しそう〜。』
プロングホーンはサーバルを抜き去ると、さらにスピードを上げた。そして一陣の暴風となって、不敵な笑みを浮かべながらチーターの横を駆け抜けた。
車の運転席からその様子を双眼鏡で見ていたキュルルは焦った。
キュルル「いけない…、これじゃチーターさんが追いつけなくなっちゃう…!」
カラカル「サーバル!もう少しよ、しっかり!」
後部座席のカラカルも、声援を送りながら心配そうな顔をしている。そしてキュルルの隣に乗っていたロードランナーが叫んだ。
G「頑張ってください、プロングホーン様ー‼︎」
トクン…、トクン…。
次第に小さくなってゆくプロングホーンの背中を見つめながら、チーターの胸は高鳴っていた。いつぶりだろう、こんな気持ちになったのは。
思えば初めて負かされたあの日から、チーターはずっとあの背中を追い続けてきた。勝負を挑み続けていた頃は、悔しくもあったがとても楽しかった。
しかしプライドから勝敗のみに目がいくようになると、楽しさは消えてしまい、ただいたずらに走るだけとなった。プロングホーンも何か感じるものがあったのだろう、いつの間にか、さっきサーバルに向けたような笑顔を見せなくなっていた。
そうなるともう張り合いもなくなって、勝負を挑む気持ちも失せてしまい、時折投げやりな感じで走るのみとなってしまった。
チーターは、自嘲めいたわずかな笑みを浮かべた。
チーター『はは…、なーんだ…。勝負がつまらなくなったんじゃない、私が、つまらなくなってたんだ…。』
するとそこへ、ヘロヘロのサーバルがやってきた。
サーバル「ごめ…、お待た…ふぇっ?」
棒を手渡した瞬間、ゴッ‼︎という風の音と共にチーターの姿が消えた。
チーターは目にも止まらぬ速さで駆け出すと、あっという間にプロングホーンに追いついた。その顔は、歓喜で輝いている。
チーター「コレよコレ!思いっきり走るの、たーのしー!!!」
プロング「きたかチーター!ハハハ、やはりお前とのかけっこは血がたぎるな!」
チーター「あーもー、私もそうよ!シャクだけど認めてあげる、私はあんたほど長く走れない!けど今、みんなが繋いでくれた好機(チャンス)!ここであんたに勝ってスッキリしてやるんだから!」
プロング「上等だ!それでこそ我が好敵手(ライバル)にして親友(とも)‼︎」
チーター「それやめて‼︎」
そして競い合う2人の体が輝きに包まれ、さらに加速した。
キュルル「ええーっ、なんで⁉︎」
腕ラッキー「アレハ共鳴(ハーモニー)ダヨ!ふれんず同士ノ思イガ一ツニナル事デ、サラナル大キナちからヲ生ンデイルンダ!」
キュルル「カラカルとサーバルが協力してセルリアンを倒してた時の輝きも、この力だったのか…。」
G「ウォォ、いっけープロングホーン様!」
まるで閃光のように駆け続ける2人の前に、ついにゴールが見えてきた。残りあと3メートル、2メートル、1メートル…、そして、ほんのわずかの差で先にゴールラインを踏んだのは…!
キュルル「チーターさんだぁぁぁ‼︎」
サーバル「やったぁぁ‼︎」
カラカル「やるじゃない‼︎」
G「ちくしょう!けど私は、こんな2人をずっと見たかったんだよォォ‼︎」
そして4人は車の中で抱き合い、お互いの健闘を称え合った。
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