◉走ってみなきゃ分からない

その頃チーターは、一人気ままに走っていた。もう邪魔が入る事はない、そう考えてしばらくは清々しい気分でいられたのだが、次第に心の中がモヤモヤしてきた。

チーター『今日のあいつ、ちっとも楽しそうじゃなかったな。いつもはもっと、こう…。』


ふとチーターは立ち止まった。すると、知らないうちに平べったい岩の前に来ていた。ここにはいつもプロングホーンがいて、かつては勝負のために足繁く通ったものだった。


チーター『落ち着いて考えてみると、今日は走りも全っ然大した事なかった。…まさか、手を抜いた⁉︎いや、あいつがそんな事するわけが…、ひょっとして、具合でも悪かったの?

…なによ、こんな勝利で浮かれてたなんて、私…、バカみたいじゃない‼︎』


そこへ、空からロードランナーが舞い降りてきた。

G「よ!探したぜ。実はちょっと話があってよ…。」


チーター「ちょうどいいわ!腰巾着、もう一度あいつと勝負させなさい!」


G「そう言うと思った…って、えええっ⁉︎」


どうせ一目会うなり、追い払われるに違いない…、けど何を言われようとも、こいつを必ずプロングホーン様の下に連れてゆく、そのためならなんだってやってやる!と意気込んでいたロードランナーは、思いがけないチーターの言葉を聞いて素っ頓狂な叫び声を上げた。



一方、プロングホーンは一本の木の下で横になっていた。

プロング『はぁ…、なんなんだこの足の重さは…。せっかくの勝負だったというのに不甲斐ない…。』


片手を額に乗せながらそんな事を考えているうちに、いつの間にか寝入ってしまった。


それからしばらくすると、プロングホーンの左の靴が黒く変色し蠢いた。そして履き口を大きく広げると、彼女を飲み込もうと迫ってきた。

しかし異様な気配を感じ取ったプロングホーンは即座に目を覚ますと、とっさに転がってそれをかわした。


プロング「なっ…、セルリアンか⁉︎」


すぐさまプロングホーンは起き上がり、右手にけものプラズムを集中させた。すると輝きの中から二股の槍が現れた。彼女はそれをしっかりと握りしめると、セルリアンに向かってゆき、何度も突きを放った。


するとそのセルリアンは、するすると縮んでゆき、元の彼女の靴の大きさとなった。靴のタンの部分に、ギロギロした目玉がついている。そしてなんと、そいつは次々と繰り出される彼女の攻撃を、ヒラヒラとかわしていった。


プロング「このっ…!それほどの速さを持っているのなら、コソコソしないで堂々と勝負しろ!」


セルリアン?「ぷぷっ…。」


プロング「なにっ、お前しゃべれるのか⁉︎」


すると、その靴型の陰から小さな緑色のセルリアンが現れた。そいつは暗い声で話し出した。


緑セルリアン「全く単純だねキミは…。ボクはね、輝きを取り込めば、どんな力でもこの通り簡単に再現する事ができる。キミが言ったように振る舞えば、どのフレンズよりも優れた存在となって、パークの頂点に君臨することもできるだろう。それだけの力はあるからね。

ぷ…ククッ…、でもね、そんな勝利には興味を持てなくなってしまったのさ…ボクは…。」


プロング「なんだとっ…⁉︎」


緑セルリアン「羽をもがれた蝶のように、突然力を奪われて狼狽しているフレンズを見るのは最高さ…。一途に努力を重ねてきたヤツであればあるほど、堕ちた時の表情が楽しめるっ…!一度これを味わってしまうと、真っ当な勝負なんて馬鹿らしくなってしまうんだよ…。」


「そんなヤツをスウっと…、取り込んで動物に戻してやった時、心の底から思えるんだよねぇ…。ボクはセルリアンなんだっ…てね、クククッ!」


それを聞いたプロングホーンは、槍を両手で握りしめると、思い切り地面を蹴って真っ直ぐ靴型に向かっていった。


緑セルリアン「そんな単純明快(シンプル)な動きじゃあ、ボクらを捕まえられないぞっ!」


靴型がその一撃をかわそうと身構えていると、彼女は突然急ブレーキをかけた。それによって大量の砂埃が舞い上がり、セルリアンを覆った。そして右手をギュッと捻ると、槍の先端がセルリアンに向かって勢いよく飛び出した。


緑セルリアン「にゃにぃ⁉︎」

さしものセルリアンも面食らい、それをかわしきれずに木にはりつけにされ、動きを封じられてしまった。すかさずプロングホーンは間合いを詰めると、体を一回転させる勢いで思い切り靴型を蹴り上げた。


ドギャッ!!!

緑セルリアン「ぐうっはっがぁ〜!!!」

稲妻のような蹴りは緑セルリアンをも捉えた。そして上空に吹き飛ばされた靴型は、空中で粉々になった。すると取り込まれていた輝きが、プロングホーンに戻ってきた。


プロング「体の不調は、セルリアンに取り憑かれていたためか…。自分の事だというのに、気づかないとは情けない…。」


さっきまでの体の重さがウソのように消えた。軽く足踏みをしてみたが、これならすぐにでも全力で走る事ができそうだ。しかし…。

プロング「チーターとの約束があるし、どうしたものかな…。」


彼女が腕組みをしながら頭を悩ませていると、背後から声がした。

G「プロングホーン様〜!」


振り返ると、ロードランナーとキュルル達、そして仁王立ちしたチーターがいた。彼女はプロングホーンを指さすとこう叫んだ。

チーター「もう一回勝負してあげるわ!ありがたく思いなさいっ!」

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