◉最速の2人

サーバルは道を逸れた先の岩陰でしゃがみ込んでいた。目から涙が溢れ出し、全身の震えが止まらない。荒い息をしながら両腕で体を抱きしめていると、キュルルを抱えたカラカルがやってきた。


カラカル「大丈夫?ガックリきてたところにああ責められたんじゃあ、ビックリするわよね。」


そう言って背中をさすってやると、徐々にサーバルは落ち着きを取り戻した。

サーバル「…はぁはぁ…。ありがとう。もう大丈夫だよ…。」


しかしまだ、指先や肩が小刻みに震えている。キュルルは心配そうにサーバルを見つめた。

キュルル『あんなに元気だったサーバルが…。やっぱり相当辛いんだな…。』


そこへ、ロードランナーが息を切らしながらやってきた。

G「ゼエゼエ…お前ら…はええなぁ…。」


するとカラカルが立ちはだかった。

カラカル「文句なら、あたしに言って!」


G「そうじゃないっ…、とにかく話を聞いてくれぇっ…!」


そしてロードランナーは、息を整えてからキュルル達に語り始めた。



もともとチーターは、足の速さを誇るフレンズ達の英雄的存在だったそうだ。抜群の身体能力と圧倒的なスピード、それに常日頃からトレーニングも欠かさない努力家だった。だが高飛車な性格で、すぐ天狗になって高慢な態度をとるのが玉にきずだった。その鼻を明かしてやろうと、ロードランナーは何度もチーターに挑んだが、その度に苦渋を舐めさせられた。


そんなチーターの前に、突如現れたのがプロングホーンだった。スピードはやや劣るものの、その驚異的な持久力で、それまで無敵だったチーターを完膚なきまでに打ちまかした。

彼女の追い求めるのはただ速さのみ、勝敗や名声など全く気に留めなかった。ロードランナーはそんなプロングホーンに惚れ込み、常にそばについて回るようになった。


一方プライドの高いチーターは、雪辱を晴らすためプロングホーンに何度も勝負を挑んできた。その度に彼女は打ち負かされたが、競い合う事で2人の速さはどんどん磨かれていった。しかしあくまで勝敗に固執するチーターは、次第に勝負をしたがらなくなってしまった。



最近では、ロードランナーがなだめすかしたり煽ったりして、なんとか勝負をしてもらっていたそうだ。そして昨日、とうとうチーターはこんな事を言い出した。

チーター「あーもう!いいわ、明日勝負してあげる!ただし私が勝ったら、もうつきまとわないで!」


G「…それが今回の勝負の約束だったんだ。でもさ、私、嫌な予感がしたんだ。久しぶりの勝負だってのに、今日のプロングホーン様、てんで元気がなくてさ。」


心配したロードランナーが勝負の中止を勧めたが、プロングホーンはかぶりを振った。

プロング「相手が同意した時点で、もう勝負は始まっているんだ。どんな状態であれ、スタートラインに立ったのなら、もう降りられない。そして全力を出す…、それが相手に対する礼儀だ。」


そして勝負が始まったが、プロングホーンの走りは精彩を欠いていた。そして両者が並んで走っていた時に、たまたま居合わせたキュルル達とかち合ったのだという。


G「…こんなのが最後の勝負だって思ったら、私もうやるせなくて…。それで怒鳴っちまったんだ。ゴメン…。」


そう言って、ロードランナーは頭を下げた。先程の威勢は何処へやら、しょんぼりとうなだれている。

そして、キュルル達も口々に謝罪の言葉を述べた。

サーバル「私たちこそ、邪魔しちゃってごめんね。」


カラカル「これじゃあ、怒鳴りたくなるのもムリないわね。」


キュルル「悪いことしちゃった…。それにしても、さっきのラッキーの話だと、チーターさんの方が速いんだよね?なのにどうしてこう一方的な結果になっちゃうの?」


腕ラッキー「チーターハ持久力ガナクテ、最高速度デハ10秒チョットシカ走レナインダヨ。一方プロングホーンハ、5分以上走リ続ケラレルンダ。」


キュルル「そんなに…!じゃあ走る距離が長くなるほど、チーターさん不利じゃないか。」


G「え?やっぱりどこかおかしかったのか?私たちもなんっか引っかかってて、勝負の度に走る場所を変えてみたりしてたんだけど…。」


キュルル「それじゃちょっと違うんだよね…。ラッキー、なんとか公平にならない?何か力になれるなら、僕達も協力するよ。」


腕ラッキー「計算中…、計算中…。アクマデでーたダケデ出シタ答エダケド、コンナ方法ガアルヨ。」

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