◉トラ×アウル+LOVE→トラブル

それから2日後、ようやくビーストは目を覚ました。身体を起こしてみても、もうどこも痛くない。どうやらゆっくり休んでいる間に傷は消え、すっかり元気になったようだ。

それからわきに目をやると、ベッドに突っ伏して眠っている博士がいた。そのあまりにも無防備な寝顔に面食らい、ビーストは博士をまじまじと見つめた。


ビースト『この子…、本当に私が怖くないのか…?』


するとそこへ、一足先に目覚めたかばんさんと助手がやってきた。2人は元気そうなビーストを見て、思わず顔をほころばせた。


かばん「…‼︎よかった、目が覚めたんだね!ずっとお礼を言いたかったんだ、助けてくれてありがとう!」


助手「お前には、言葉で言い表せないくらい感謝しているのです。かばんを助けてくれて、ありがとうなのです。」


すると博士も目を覚ました。

博士「むにゃ…、ん?…ビースト、起きたのですね!よかったのです〜!」


そう言って、博士はニコニコしながらビーストの手をきゅっと握った。


その様子を見たビーストは困惑していた。なにしろこれまで笑顔を向けられた事はおろか、明るく笑った事すらないのだ。それでもなんとか相手の気持ちに応えようと、見様見真似で顔に力を入れてみた。

そうしてでき上がったのは、まるでキバを剥き出して威嚇しているかのようなあまりにも不器用な笑みだった。しかし3人は特にそれを気にする事もなく、ビーストに笑顔を向けている。


博士「ふふっ、まだまだ練習が必要なのです。」


助手「笑顔は幸せを運んでくるのです。『過度な笑いに福が来る』、ですよ。」


かばん「ははは、すぐできるようになるよ。さあ、ご飯を食べてからお風呂に入ろう!」


こうして、朝食の後みんなで入浴する事となった。かばんさん達は毛皮を脱ぐと、のんびりと湯船に浸かった。お湯の温かさが、体の隅々にまで染み渡ってゆく。


かばん「はぁ〜、気持ちいい〜…。」

助手「極楽なのです…。」

博士「ほぅ…。ほら、怖くないですよ、お前も入ると良いのです。」


ビーストは毛皮が脱げる事を初めて知った。それにお風呂を見たのも初めてだ。そのためしばらくの間警戒しながら周りをウロウロしていたが、かばんさん達の気持ちよさそうな顔を見ているうちに考えが変わったらしく、やけくそ気味に毛皮を脱ぐと、意を決して飛び込んだ。


初めてのお風呂は、とても心地よいものだった。つるつるの肌がポカポカと温かいお湯に包まれて、心と体が溶けていった。しかしビーストはそのままのぼせて目を回してしまい、ぶくぶくと沈んでいった。かばんさん達は慌てて彼女を湯船から引っ張り出すと、しっかり体を拭いてやり、それから毛皮(ワイシャツとパンツ)をゆったりと着せてあげた。そして博士が彼女を居間のベッドに連れてゆき、ネクタイやベストなど残りの毛皮を床に置いた。


博士はグッタリしているビーストの額に、冷たい水で濡らしたタオルを乗せた。

博士「しっかりするのです。誰しも最初は不安で、失敗するものなのです。大事なのは、それを繰り返さないよう学ぶ事なのですよ。」


するとビーストは、熱に浮かされたような目で博士を見た。そしておもむろに大きな手を伸ばすと、ギュッと抱き寄せた。

博士「ひゃっ⁉︎た、食べないで………?」


博士は驚いて思わず体を細くしたが、ビーストは彼女を両腕で優しく包むと、顔をこすり付けてきた。

博士「…心細かったのですね。よしよし。心配しなくても、私はお前のそばにいてやるですよ。」


そして博士は、微笑みながらビーストをぎゅっと抱きしめた。ぬくぬくの体と温かな羽毛がお互いを優しく包み込んでゆき、やがて2人は眠ってしまった。

そんな部屋の外では、かばんさんと助手がその様子を見守っていた。

かばん「…悲鳴がしたから来てみたけど、問題なさそうだね。」


助手「ええ、ひとまずビーストは博士に任せましょう。」


2人は小声で言葉を交わすと、そっとそこから離れた。



しばらくしてビーストは目を覚ました。するとすぐ目の前に、眠っている博士がいた。

自分を恐れず、こんなに近くまで来てくれたフレンズは初めてだった。ビーストは、しげしげとその寝顔を眺めた。


博士はすーすーと寝息を立てている。それに合わせて小さな肩が揺れていて、体からはお風呂上がりのいい匂いがする。大きな目には艶やかなまつ毛が生えていて、ふっくらした頬は、ほんのりピンク色に染まっている。


そのままじっと見つめていると、可愛らしい唇がむにゃむにゃと動いて、大きな瞳がゆっくりと開いた。

博士「ふぁ…、おはようなのです。気分はどうですか?こうしているとなんだか心がふわふわして、とっても気持ち良いですね。」


そう言ってにっこりと笑った。


なんだか急に恥ずかしくなってきて、ビーストは顔を真っ赤にしながらバッと起き上がった。するとゆったりと着せられていた毛皮がずれ、胸元が露わになった。慌てて床に置いてあった分までしっかりと着直すと、ベッドに腰掛けて大きなあくびをした。

博士は微笑みながらその様子を眺めていたが、彼女の後ろ姿を見て毛並みがボサボサな事に気づくと、ブラシを持ってきて丁寧にブラッシングをし始めた。


ビースト『わぁ…、気持ちいいな…』

これまたビーストには初めての体験だったが、とても心地よいものだった。そのまま目を細めながら博士に身を委ねていると、今まで笑った事のないその顔にわずかな笑みが浮かびかけた。


しかし突如、頭の中に例の声が響き渡った。

【戦えっ!】


ドクン…!

途端に心臓が高鳴り、全身の毛が逆立った。ビーストは弾かれたかのようにベッドから飛び出すと、空中で一回転して四つん這いで着地した。そして吹き飛ばされたブラシが床に転がった。


その突然の行動に、博士はびっくりした。

博士「えっ、どうしたのです⁉︎痛かったのですか⁉︎」


ビーストは右手で頭を抱えながら苦悶の表情を浮かべると、唸り声を上げながら部屋をバタバタと駆け回った。そしてなだめようと近づいた博士を突き飛ばしてしまった。

博士「あっ…⁉︎」

ビースト『!!!』


ビーストは尻餅をついた博士を見て悲しそうな顔をした後、不意に窓から外に飛び出すと、そのままどこかへ走り去ってしまった。


あまりに急な出来事で、博士はビーストの跡を追う事もできず、ただ呆然としていた。

博士「ビースト…、一体どうしたというのですか…。」


そこへ、アライさんとフェネックが調査から帰ってきた。そして部屋に入ってくるなりこう叫んだ。

アライさん「大変なのだ!…え〜っと、とにかく大変なのだ‼︎」


フェネック「キュルルって子の絵からフレンズそっくりなセルリアンが現れて、ホテルに向かったそうだよ!」

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