◉悪夢(ナイトメア)

かばんさんは自分の部屋のベッドに横になった。助手がその隣に座っている。

助手「かばん、体は大丈夫なのですか?」


かばん「うん、あちこちヒリヒリするけど平気だよ。心配かけてごめんね。それよりあの子たちは?」


助手「かばんがいなくなってしまったと一晩中泣いた後、また旅に出たのです。『悲しい子には旅をさせるな』と言いますし、博士が引き止めようとしたのですが、ここにいるのはサーバルにとって辛すぎると…。」


かばん「そっか…、早く大丈夫だって知らせ…ない、と…。」


話の途中で、かばんさんは眠ってしまった。大きな怪我はないようだが、あれほどの事があったのだ、相当消耗しているのだろう。助手はそんなかばんさんを心配そうに見つめていた。


一方博士は、ビーストの看病をしていた。バス型セルリアンにめちゃくちゃにされてしまった寝室から無傷のベッドを居間に持ってきて、そこにビーストをうつ伏せに寝かせた。


博士はベッドの横で微笑みながら、彼女にこう囁いた。

博士「かばんを助けてくれてありがとうなのです。」


ビーストは、静かに寝息を立てている。呼吸も落ち着いてきて、顔色も良くなってきた。博士はひとまず安心し、今度はかばんさんの様子を見るために、そっと部屋を後にした。



ビーストは、鉄格子がはまっている四角い箱の中で目を覚ました。鉄格子は一部がぐにゃりと曲がっていて、大きな隙間が開いている。そこから這い出てみると、あたりは真っ暗で誰もいない。するとどこからか低い声が聞こえてきた。

「戦え…、戦え…!」


それに急かされるようにビーストは駆け出した。しかしどこまで行っても暗闇ばかりで、次第に心の中が恐怖と寂しさでいっぱいになっていった。それなのに、声ばかりが大きくなってゆく。

「戦え…!戦えっ!!戦うんだっ!!!」



ビーストはハッと目を覚ますと、ガバッと起き上がった。すると背中がズキンと痛んだ。その痛みにうずくまりながらあたりを見回すと、見知らぬ建物の中だった。床には緑色の絨毯が敷かれ、部屋の真ん中に丸いテーブルと椅子があり、壁際にはヒト一人が入れるくらいの細長い機械のカプセルが置かれている。


するとテーブルと椅子の影がチロチロと揺らめき、耳が生えてフレンズの顔のようになった。そして耳障りな声でしゃべり始めた

影「タベタンダ。タベタンダ。」


それからケラケラと笑いだした。ギョッとしていると、すぐ後ろからも同じ笑い声がした。恐る恐る振り向くと、そこには自分の影が立っていた。真っ黒な顔に、亀裂のような笑みを浮かべた大きな口だけが白く光っている。

影「オマエガ、タベタンダァ!」


ビースト「グワァァァッー!!!」


恐怖で胸が張り裂けそうになり、ビーストは大きな叫び声をあげた。


博士「何事ですっ⁉︎」

それを聞いて博士が飛んできた。ビーストはベッドの上で喚きながら両腕を振りまわしていたが、すぐに力尽きて仰向けに倒れ込むと、ひどく怯えた顔をしながら震えていた。


博士「大丈夫、何もいないのです!ここは研究所、お前が助けてくれたかばんのおうちなのです。

やはりお前は喋れないようですね。私の言葉は分かりますか?…ま、分からなくても良いのです。お前が優しいフレンズである事は、ハッキリしているのです。」


博士はビーストを刺激しないよう、できるだけ穏やかな声で話しかけた。するとビーストは、次第に落ち着きを取り戻した。


それを見て、博士は微笑を浮かべた。

博士「今はただ、休んでいれば良いのです。難しい事は、元気になってから考えるのです。…っと、助手が来たようですね。相手をしてくるので、お前はゆっくり寝てると良いのです。」


そう言って博士は部屋から出ていった。すると廊下から声が聞こえてきた。

助手「何事です?」

博士「心配ないのです。きっと怖い夢でもみたのです。」


ビーストは会話はできないが、言葉はある程度理解できた。それと仕草や雰囲気などから、相手の気持ちを察することもできた。

どうやらあれは夢で、ここは敵のいない安全な所らしい。ビーストは大きく安堵の息を吐くと、再び眠り始めた。

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