◉強襲!バス型セルリアン
グゴゴゴゴッ
そこへ突然、大きな地震が起こった。研究所が激しく揺れ、セルリウムを保管していた棚が倒壊した。すると中に保管されていたセルリウムが、輝きに向かってうねうねと伸びていった。それはガレージに止めてあったジャパリバスまでたどり着くと、その輝きを取り込んでバス型のセルリアンとなった。
グワシャァン!
ガレージから大きな音がした。かばんさんとサーバルが慌てて窓から下を覗くと、バス型セルリアンがガレージを飛び出して、キュルル達の寝室に向かって猛スピードで走ってゆくのが見えた。
サーバル「いけない!」
サーバルはすぐに窓から飛び出すと、セルリアンを追いかけた。そして博士と助手が部屋に駆け込んできた。
博士「かばん、大変なのです!」
助手「ガレージからバスの形をしたセルリアンが!」
かばん「分かってる、行こう!」
かばんさん達は部屋を飛び出すと、大急ぎでキュルル達を助けに向かった。
外で大きな音がして、キュルルとカラカルは飛び起きた。すると…、
どっかーん!
寝室の壁を吹き飛ばして、バス型セルリアンが現れた。バス型は後輪で立ち上がり、運転席の正面に付いた巨大な目をグリグリと動かすと、前輪のシャフトを触手のように伸ばして振り回した。その大きなタイヤが、唸りを上げながらキュルルに迫ってきた。
とっさにカラカルがキュルルを抱えて跳び、なんとかタイヤをかわした。しかし体勢が整う前に、もう一つのタイヤが向かってきた。カラカルは避け切る事ができず、それが背中を直撃した。全身に激痛が走って意識が朦朧となり、彼女はその場に崩れ落ちた。
キュルル「カラカル⁉︎カラカル、しっかり‼︎」
キュルルはカラカルを抱き起こし、必死に呼びかけた。そこへ、両前輪を高く掲げたバス型が迫ってきて、2つのタイヤを勢いよく振り下ろした。
ゴシャァァン‼︎
大きな音とともにベッドと床が吹っ飛び、もうもうと粉塵が舞った。しかしそこに2人の姿はなかった。するとバス型の後ろからサーバルの声がした。
サーバル「ほら、こっちだよ!」
サーバルの隣には、キュルルとカラカルがいる。
2人は間一髪の所でサーバルに助けられ、外に連れ出されていた。
バス型がサーバルの方を振り向いた。するとその背後から、部屋に飛び込んできた博士と助手が空中から飛びかかった。2人はそのままの勢いでバス型を押し続け、研究所を囲っていた厚い壁まで押し込んだ。
2人の爪がバス型に食い込み、その背中に小さなヒビが刻まれてゆく。
サーバル「みゃみゃみゃみゃみゃみゃーっ‼︎」
そこへサーバルも突っ込んできて、ところ構わず攻撃を加えた。
するとバス型は上体を大きく捻り、振り向きざまに左のタイヤで3人を振り払った。その強烈な一撃で、博士と助手は壁の外まで飛ばされ、サーバルは地面に叩きつけられた。衝撃で頭の中がぐわんぐわんと揺れ、立ち上がる事ができない。
するとそこへ、かばんさんの運転するオフロードカーが突っ込んできた。かばんさんは運転席からチラッとサーバルを見た後、猛スピードでバス型に向かってゆき、思いきり体当たりした。
ドゴォッ!
大きな衝撃音と共に、バス型が壁にめり込んだ。しかし車の直撃を受けたにも関わらず、相手は怯む事なく触手を振りまわし、巨大なタイヤを車に叩きつけた。その攻撃で屋根が吹き飛んで内部がむき出しとなり、車体がひん曲がってメチャクチャになった。さらにバス型は車を抱え込むと、運転席ごとかばんさんを押し潰そうとした。
それを見て、サーバルが必死に叫んだ。
サーバル「にっ、逃げてかばんさん!そこから今すぐっ…⁉︎」
すると、かばんさんの乗る車がものすごい光を放った。対セルリアン用の最終手段である自爆装置を作動させたのだ。かばんさんは、真っ直ぐ前を向きながらこう呟いた。
かばん「ごめんねサーバルちゃん…、さっきの約束、もう守れなくなりそうだ。けど…、それでも君は生きて…!」
ドォォォン!
そして車が大爆発を起こした。激しい光と音とともに厚い壁が崩れ、車の残骸があたりに散らばった。
キュルル達は呆然とその光景を眺めていた。そしてサーバルの目の前に、かばんさんの帽子がパサリと落ちた。
サーバル「そんな…!やだよかばんさんっ…、かばんさぁぁん!!!」
それを震える手でギュッと抱きしめながら泣き叫ぶサーバルの周りに、キュルル達も集まった。そして3人は声の限り泣いた。
サーバル「うあぁぁぁん!!!」
キュルル「かばん…さんっ…、う…っわぁぁぁん!!!」
カラカル「ウソでしょっ…、わぁぁっ!!!」
そこへ、吹き飛ばされた博士と助手がやってきた。
博士「よかった…、お前達、無事だったのですね!」
助手「…かばんはっ⁉︎…まさか…!」
キュルルはむせび泣きながらこう答えた。
キュルル「僕達をかばって…、車が爆発して…!」
その言葉で2人は瞬時に状況を理解し、沈痛な面持ちでうつむいた。すると、瓦礫となった壁の山が崩れ、その中から物音がした。それまでうつむいていたみんなは顔を上げ、そちらの方を見た。
サーバル「かばんさんっ…⁉︎」
「グォォォォォーン!!!」
なんと瓦礫を吹き飛ばし、雄叫びとともに現れたのはバス型セルリアンだった。全身が焼け焦げ、体のあちこちから煙が上がり、両前輪は吹き飛んでいたが、ギロリとキュルル達を睨むと、ものすごい勢いで向かってきた。
ザシュッ!
しかし突然セルリアンの体が裂けたかと思うと、あっという間に全身にヒビが広がってゆき、そのままぱっかーん!と弾けた。
セルリアンのきらめきが降り注ぐ中、あまりの出来事にみんな唖然としていた。
サーバル「今のは…?」
キュルル「一体、何が…?」
カラカル「…かばんさんが、やっつけてくれてたのね…。」
しかし博士は疑問を抱いていた。
博士『妙ですね…、爆発にやられたというよりは、何か鋭いもので切り裂かれたような消え方なのです。』
それからみんなであたりを捜索したが、かばんさんの姿はどこにもなく、それぞれ悲痛な思いで夜を明かした。そして翌朝、博士と助手は出発するキュルル達を見送った。
博士「もっとゆっくりしていっても構わないのですよ?」
キュルル「いいえ…、早く行かないと。僕よりもサーバルが辛そうで、見てられないんです。」
すると、博士がキュルルにラッキービーストの本体を手渡した。
博士「それなら、これを連れてゆくと良いのです。何かあったら我々と話ができるのです。」
キュルル「ありがとう…。」
キュルルは暗い顔をしながら受け取ると、それを左の腕に着けた。
助手はかばんさんの帽子をサーバル差し出した。
助手「これはお前が持っていても良いのですよ。」
けれどもサーバルはかぶりを振った。
サーバル「ううん…、かばんさんが戻ってきた時、ここに無いと困るだろうから…。」
博士「近くを通りがかったら、また遊びに来ると良いのです。」
助手「特にお前には、辛さの素晴らしさを知らしめてやるのです。」
カラカル「甘いもの用意しなさいよ…。でも、何か美味しいものを見つけたら持ってくるから…。」
そう言って、3人は重い足取りで旅立った。その姿が見えなくなると、助手が涙ぐみながら博士に話しかけた。
助手「グスン。客人の前ではなんとかこらえてましたが…、やはり、気が緩むとダメですね…。ところで博士、かばんの事なのですが…。私はどうも、腑に落ちない点があるのです。」
博士「…ええ、確信がないのであえて伏せていたのですが、いくら凄い爆発とはいえ、体だけでなく毛皮の切れ端すら見つからないのはおかしいのです。それにもし万が一の事が起きて消滅したのなら、部屋にあった毛皮も消えるはず…!もう一度、しっかり周りを探すのです!」
助手は涙を振り払い、帽子を胸に抱いて叫んだ。
助手「一度と言わず何度でも!私は絶対諦めないのです!」
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