◉約束
煌々と輝く月が、あたりを明るく照らしている。博士への報告を済ませたかばんさんは、2階の自室の椅子に上着をかけると、机の電気スタンドをつけて調べ物を始めた。すると窓から十分な月光が差してきたので、スタンドの明かりを消した。窓の向こうにはまんまるな月が見える。そしてそこに、ポツンと小さな影がある。
研究所の資料によると、あれはかつてヒトが作り出した人工衛星というものだそうだ。
かばん「ヒトはあれで、なにをしていたんだろうなあ。」
それをぼんやりと眺めていると、後ろのドアから音がした。振り向くと、そこにはサーバルがいた。
サーバル「えへへ、何してるの?」
かばん「サーバル…!どうしたの?眠れないの?」
するとサーバルは、右手の親指を立てた。
サーバル「私、夜行性だから!いつもはキュルルちゃんに合わせてるんだけど、今日はなんだか寝れなくて。あちこち見ながら歩いてたんだけど、かばんさんの部屋のドアが少し開いてたから、覗いてみたくなったの。」
そして床にペタンと座った。かばんさんは調べ物を切り上げると、サーバルと同じように床に座って、向かい合った。
かばん「じゃあ、眠くなるまでお話ししてようか。」
サーバル「うん!それじゃあ、…かばんさんはここで生まれたの?」
かばんさんは、少し言い淀んでからこう答えた。
かばん「…うん、気がついたらここにいて、博士さんと助手さんと暮らす事になったんだ。サーバルはどこで?その胸の赤い羽はなんなの?」
サーバル「この羽、フレンズになった時からあったんだ。それからずーっとサバンナで暮らしてたんだけど、たまーに知らない景色が頭に浮かんでくるの。そんな時はいつも隣に誰かがいるんだ。その子がどんな格好なのかはハッキリ思い出せないんだけど、とっても優しくて、私の大好きな子なの!」
「今日かばんさんに会って、私、その子の事が頭に浮かんだんだ。だからかばんさんに聞いてもらおうって思って。…それでね、かばんさんはその子の事、何か知らないかな?」
湧き上がる感情をグッとこらえ、かばんさんは平静を装いながらこう答えた。
かばん「…さあ、どうだろうね。さっきも言った通り、私はあまり出歩かないし、正体の分からないフレンズの噂話はたくさんあるからね。もう少し特徴が分かれば答えられるかもしれないけど、これだけじゃなんとも言えないよ。」
サーバル「うみゃ…ごめんなさい。」
かばん「謝ることないよ!分からないことをそのままにしないで、聞きにきてくれたんだから嬉しいよ!」
サーバル「ホントに⁉︎」
かばん「もちろんだよ!…実はね、今取り組んでる問題が全部片付いたら、私も旅に出ようと考えているんだ。ここでは沢山の知識が得られるけど、実際に様々な風景やそこで暮らすフレンズ達を見て、見聞を広めようと思ってね。もしかしたら途中で君たちとも出会うかもしれない。その時は、一緒にあちこち冒険したいな。」
サーバル「わぁ…!きっとそれはすっごく楽しいよ!楽しみだなぁ、やくそくだよ!」
かばん「うん、約束だね!」
そう言って、かばんさんは左手を軽く握ると小指を差し出した。それを見て、サーバルは不思議そうな顔をした。
サーバル「それなに?」
かばん「指切りって言ってね、ヒトが約束する時のおまじないだよ、その夢が叶いますようにって。サーバルもやってみて。」
するとサーバルは、かばんさんの手をじっと見つめながらぎこちなく右手の小指を伸ばした。
サーバル「う〜ん…」
かばん「あ、反対の手でやるんだよ。」
サーバル「えーっと、こう?」
かばん「そう!それでね…」
そしてかばんさんは、すっと腕を伸ばしてサーバルと指切りをした。
かばん「約束っ!」
それを聞いたサーバルは、目をキラキラと輝かせながら声を弾ませた。
サーバル「やくそく!」
かばんさん「約束だよ!」
指切りが終わっても、サーバルは興奮しっぱなしだった。
サーバル「やっぱりかばんさんはすっごいんだね!私の知らない事をいっぱい知ってるし、いっつも難しい事を考えながら、楽しい事もたっくさん思いつくんだもん!私も、かばんさんみたいにみんなを助けてあげられたらなー!」
かばん『っ………‼︎』
先程から、かばんさんはサーバルの言葉に心を揺さぶられ続けていたのだが、この言葉で耐えきれなくなった。どんなに必死に押さえつけようとしても感情が溢れ出てきてしまい、声が少し震えてしまった。
かばん「そんなふうに思う必要なんてないんだっ…!だって…、だって私は、ずっとサーバルの事が好っ…。
…素晴らしいフレンズだと…、思ってるんだからさ…!」
そしてサーバルをじっと見つめる目は、涙で潤んでしまっていた。しかし幸いな事に、月光に照らされていたサーバルはそれに気づかず、屈託のない笑顔を浮かべている。
サーバル「わーい!ありがとうかばんさん!」
かばん『よかった…、月の明かりが涙を隠してくれたみたいだ…。』
そしてかばんさんは、悲しげに笑いながら自分にこう言い聞かせた。
かばん『これでいい…、これでいいんだっ…!今はまだ言えないよ…。サーバルちゃんが思ってるほど、僕は強くもなければ賢くもないんだっ!なんとか…、早くなんとかしないと…‼︎』
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