研究所編

◉研究所

しばらく進むと、厚い壁に囲まれた研究所が見えてきた。


サーバル「わー、でっかーい!」


カラカル「ここがあんたのおうちなの?」


キュルル「多分違う…けどなんだかワクワクするよ!かばんさんはここに一人で住んでるんですか?」


かばん「違うよ。アフリカオオコノハズクの博士さんと、ワシミミズクの助手さんと一緒に暮らしているんだよ。あと、お手伝いをしてくれる2人組がいるんだけど、今は出かけてていないんだ。」


そこへ助手が音もなく空から下りてきた。そして車の屋根に乗ると、逆さに身を乗り出して窓からぬっと顔を出した。

助手「お前達、研究所を案内してやるですよ。」


キュルル達「わあっ!?」


そしてその体勢のまま、毛皮から「ことわざえほん」と書かれた本を取り出して読み始めた。


かばん「それ、このところのお気に入りなんだ。その影響で時々難しい事を言うんだけど、あまり気にしなくて良いからね。」


助手「言葉にしてこそ身につくのです。『百の文も、一言に如かず』なのです。」



車は薄暗いガレージに入って行った。その中には一台のジャパリバスがあり、かばんさんはその隣に車を止めた。


サーバル「かばんさん、この子は?」


かばん「それはジャパリバスだよ。これからちょっとやってもらいたいことがあってね、ようやく整備が終わったところなんだ。」


サーバルは、なぜか熱心にバスを見つめている。

カラカル「知ってる子?」

サーバル「全然。けど、なんだか見ててウキウキしない⁉︎」

カラカル「…いや、しないけど?」

キュルル「わぁ…、これもカッコいいなぁ…!」


研究所の入り口の前では、博士が待っていた。

博士「かばん、助手、戻ったのですね。… おや、珍しいお客が来たのです。」


かばん「ただいま博士さん。この子達はおうち探しの旅をしていて、たまたまジャングルにいたんだ。知りたい事があるそうだから連れてきたんだよ。」


それを聞いた博士は胸を張った。

博士「何でも聞くと良いのです。我々は賢いので。」


そしてかばんさんの隣で、助手も同じように胸を張っていた。

助手「『聞くは一生の価値、聞かぬ者は一生同じ』なのです。」


かばん「他にもいろいろあったから、後で話すよ。」


そしてかばんさんは、キュルル達にこう言った。

かばん「ようこそ研究所へ。歓迎するよ。」



かばんさん達は3人に研究所を案内した。ここにはラッキービーストのメンテナンスを行う機械もあり、数体のラッキービーストがその上に並んでいた。本体は外されて、前の台座に固定されていた。


その後、かばんさん達はお茶とお菓子で3人をもてなした。それからキュルルの話を聞いて見解を述べたり、自分たちの事を話したりした。


かばん「外出?時々ゴリラさん達に挨拶しに行ったり、ジャングルに食材を取りにゆくくらいかな。私達、あまり出歩かないんだ。」


博士「わざわざ出歩かなくても、賢い我々の所には、問題の方からやってくるのですよ。この間も、ホテルで行われるというペパプライブに助言をしてやったのです。」


助手「今度のライブは、夜通し行われる特別なものだそうです。」


かばん「正直、博士さんには、もう少し運動して欲しいんだけど…。」


助手「私もたびたび言っているのですが…、『暖簾に釘』、どうにもならないのです。」


博士「だから問題ないって言ってるのです!」


その後でセルリウムの研究を見せたり、セルリアンと海底火山の関係に気付いたキュルルの判断力に驚かされたりした。


そうこうしているうちに夕方になった。かばんさん達は3人に、今日はここに泊まるよう勧めた。

夕食は定番の激辛鍋にした。キュルルとサーバルは辛さにヒーヒー言いながらもバクバク食べていたが、警戒心の強いカラカルは食べようとしなかったので、あらかじめ用意しておいたケーキ風ジャパリまんと、きのこのスープをご馳走した。


ご飯を食べた後、3人はかばんさんに促され、大きなお風呂に入った。サーバルとカラカルは毛皮を着たままだったが、キュルルはどうにも違和感が拭えなくて、服を脱いで一緒に入った。


それからたくさんのベッドが並んでいる寝室に案内された。

かばん「どこで寝てもいいよ。今日はいろいろあって疲れたでしょ、ゆっくり休んでね。」


キュルル「あの…、僕、みんなで寝たいんですけど、駄目でしょうか?」


かばん「え?…2人もそれでいい?」


かばんさんが尋ねると、サーバルとカラカルも頷いた。するとかばんさんは、6つのベッドを繋げてこう言った。

かばん「私達は夜遅いから、先に横になってて。後から来るけど、無理せず寝てていいからね。」


そう告げて部屋から出て行った。


そうして窓のそばからカラカル、キュルル、サーバルと順に並んで、ベッドに横になった。

サーバル「面白いとこだね。辛いご飯も、最初はビックリしたけどおいしかった。カラカルも食べればよかったのに。」


カラカル「いいとこなのは分かるけど、あれだけはゴメンだわ。あんた火ィ吹いてたじゃない。キュルルはどう?」


キュルル「うん。もしかして、おうちってこういう所なのかもしれない。美味しいものがあって、みんなが笑ってて、あったかくて明るくて、安心できて…。」


サーバル「キュルルちゃんのおうちも、きっと素敵な所だよ。」


カラカル「あたし達と一緒に探せば、必ず見つかるわよ。」


キュルル「そうだね、ありがとう。あと…。」


カラカル「ビーストでしょ。ほんっと、あんたはそればっかりね!」


そして3人で笑い合った後、キュルルは目を閉じた。

カラカルの言う通り、頭の中に思い浮かぶのは、おうちよりもビーストの事ばかりだった。実際に会った彼女は、想像の何倍もカッコよかった。突然の事でビックリしたが、今日の事は何か訳があるに違いない。今度はいつ会えるだろう。そんな事を考えているうちに、いつしかキュルルは眠りについた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る