◉希望の歌
かばんさんはゴリラ達をビーストから離れた場所に連れていった。そしてラッキーさんに業務を引き継いだジャングルラッキーとも、ここでお別れする事となった。
かばん「ここならあの子も来ないと思うよ。広場の事は、もう少し落ち着いてからにしよう。」
ゴリラ「助かったよ。ありがとうかばんさん。」
かばん「じゃあねジャングルさん。また何かあったら知らせてね。」
ジャングルラッキー「マカセロ。」
別れ際に、キュルルが新しい紙相撲と土俵、それと絵を彼女達に手渡した。
キュルル「はい、ジャングルのみんなを描いてみたんだ!」
ヒョウ「おおー!」
クロヒョウ「これうちらか!」
イリエワニ「見事なものだな。」
メガネカイマン「素敵な力ですよね。」
ゴリラ「ありがとう。おうちが見つかったら、ぜひまた来てくれ。」
その後で、キュルルが起きた時の様子と旅の目的を聞いたかばんさんは、何か力になれるかもしれないと考え、3人を住まいである研究所へと誘った。
かばんさんの運転する車は、4人を乗せてゴトゴトと進んでゆく。
かばんさんがハンドル近くのスイッチを押すと、スピーカーから音楽が流れてきた。それに合わせて鼻歌を歌いながら運転していると、隣に座っているキュルルが話しかけてきた。
キュルル「その音、なんなんですか?」
かばん「うん?こういうのを聞いたのは初めて?」
キュルル「はい、とっても綺麗だなって思って…。」
かばん「これは歌っていうんだ。音だけじゃなく、それに合わせた言葉もあるんだよ。昔の記録を調べていたら見つけてね。いつ誰が、何のために作ったのかは分からないのだけど。」
それを聞いたサーバルが、後ろから身を乗り出してきた。
サーバル「なにそれなにそれ、聞いてみたーい!」
かばん「そう?それじゃあ…」
かばんさんは曲を巻き戻すと、歌い出しからせつせつと歌い始めた。それはなんだか悲しい、けれどもとても綺麗で気持ちが揺さぶられる歌だった。すると歌を聞いていたサーバルとカラカルも、途中から一緒に歌いだした。そんな3人を見て、キュルルは目を丸くしながらじっと歌に耳を傾けていた。
歌が終わっても、キュルルは感心しきりだった。
キュルル「歌ってすごいなあ…。けどどうして2人とも歌えるの?」
サーバル「うーん…、分かんないや!なんでだろう?」
カラカル「不思議なんだけど、自然と口から出てきたのよね。」
かばん「ゴリラさん達もそうだったんだ。もしかしたらフレンズみんなが歌えるのかもしれない。私は“希望の歌”って呼んでるんだ。」
キュルル「希望の、歌…。」
それを聞いたキュルルは、歌えなかった自分はやはりヒトで、フレンズとは少し違うのだなと考え、気持ちが沈んだ。
その様子に気付いたかばんさんは、微笑みを浮かべながらキュルルを見た。
かばん「心配しないで。みんなと同じじゃなくてもいいんだ。キュルルさんはまだ起きたばかりで不安もたくさんあるだろうけど、好きな場所や得意な事は、探していればきっと見つかるよ。」
「ジャングルでは話を聞いただけで紙で相撲を作ったっていうし、さっきはビーストの事を思いやってくれたよね。君は賢くて器用で、とても優しいんだね。」
キュルル「えっ!?そう、なのかな…。」
褒められて嬉しい反面、恥ずかしくもあった。キュルルは顔を赤らめつつうつむくと、スケッチブックをパラパラとめくりながら、さっきの事を思い返した。
キュルル『ビーストって、あんな格好の子だったんだ…。やっぱりこの絵は、あの子を描いたものなんだな。』
ビーストは噂通り、オレンジ色にところどころ白の混じった大きな体をしていた。そしてトラ柄模様のついたボリュームのあるロングヘアーを、黄色いチェック柄のリボンで2房にまとめていた。毛皮は白いワイシャツの上にコゲ茶色のベスト、首には黄色のネクタイを締めていて、下はリボンと同じ柄のミニスカートと、トラの縞模様の入った腿まであるガーターソックス、黒いリボンのついた白い靴を履いていて、お尻から縞模様の長い尻尾が生えていた。
改めてスケッチブックの最後のページに描かれているトラの子の絵を見てみると、特徴がそっくりだった。
キュルル『鋭い目つきだったけど、全然怖くなかった。僕を見て何か言いたそうだったけど…、おしゃべりできるようになったら教えてくれるかな。』
しかしその絵をよく見てみると、ある違和感に気づいた。
キュルル『あの子の頭の紋章とこの絵の模様はちょっと違うな…。それに手枷と黒い鉤爪がない。』
するとサーバルが、後ろの席からスケッチブックを覗き込んだ。
サーバル「あれ?キュルルちゃん、その絵ってビースト1人じゃなかった?」
確かにトラの子の周りに、サーバルやカラカル、そしてこれまで出会ったフレンズ達が描かれている。
キュルル「これはね、ビースト1人だと寂しそうだから、出会ったフレンズを書き足していってるんだ。」
サーバル「わぁ、やっぱりキュルルちゃんは優しいね。かばんさんの言った通りだよ!」
一方カラカルは、さっきからビーストばっかりで、全然自分を見てくれないキュルルにむくれていた。
カラカル「なによ!このビースト馬鹿っ‼︎」
そして腹立ちまぎれにこう叫ぶと、プイと顔を背けた。
その気持ちを察したかばんさんは、ハンドルを握りながら苦笑いをした。
かばん「はは…、仲良くね。」
しかし、肝心のキュルルはなぜカラカルがさっきから怒鳴っているのかよく分かっていないようで、目をパチクリさせている。そんなカラカルをまあまあとなだめながら、サーバルはかばんさんをじっと見つめていた。
サーバル『初めて会ったはずなんだけど…なんだろう、この気持ち。』
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