◉パークガイド

キュルルはサーバルとカラカルに挟まれて、後部座席に座りながらじっと後ろを見つめていた。すると運転席から声がした。

?「みんな大丈夫?」


そして屋根の上からゴリラ達の「どうにか。」という返事が返ってきた。


それからサーバルがこう言った。

サーバル「助けてくれてありがとう、私はサーバルキャットのサーバル!あなたは?」


?「サーバル…?」


その名前を聞いて、運転席の人は振り向いた。

その人は緑色のウェーブがかった髪をしていて、ぱっちりした瞳に端正な顔立ち、頭には薄い灰色のサファリハットをかぶっていて、そこに一枚の青い羽を刺していた。そして背もたれ越しに、赤い服の上に黒い上着をはおっているのが見える。


サーバルを見つめるその眼差しは、驚きと喜びと悲しみが混ざり合ったようなものだった。その人はしばらくそのまま固まっていたが、右腕につけた小さな機械から声がした。


???「カバン、前ヲミテ」


その言葉が終わると同時に、車が石を踏みつけてガクンと揺れた。

みんな「わあ!?」


その人は慌てて前を向いた。

かばん「ごめんごめん、しっかり運転するよ。

私はかばん。ここのパークガイドだよ。この近くで夕食の食材を探していたんだけど、ジャングルさんからの連絡を受けて飛んできたんだ。みんな無事でよかったよ。

そしてこの腕の小さいのは、ラッキービーストのラッキーさん。」


ラッキーさん「ヨロシクネ。」


サーバル「よろしくね、かばんさん、ラッキーさん。」


そしてカラカルとキュルルもお礼と自己紹介をした。そしてキュルルの言葉を聞いたかばんさんは、ハンドルを握ったままこう答えた。

かばん「君はヒトなんだね。私もそうなんだ。」


キュルル「ええー!?」


サバンナでロバやセンザンコウが言っていたヒトが目の前にいた事に、キュルルはとても驚いた。


キュルル「ハックション!」

そして最後の大きなくしゃみがでた。


カラカル「しっかりしてキュルル。ねえ、さっきの煙、なんだったの?」


かばん「あれはセルリアンへの目眩しと、フレンズさんのケンカを止めるためのものなんだ。ここには元気でヤンチャな子がいっぱいいて、時々力比べをしてるんだよ。」


しかし白熱しすぎて怪我人がでそうになることもある。そんなフレンズ達のまとめ役であるゴリラから、なんとかできないかと相談を受けたかばんさんは、一つの方法として、紙飛行機を使った煙幕を思いついたのだった。


かばん「さっきのは緊急用の試作品で、あの煙には少量のトウガラシの粉を混ぜてあるんだ。少しの間涙と鼻水で苦しい思いをするけれど、それ以上の心配はない。でもだからって無闇にフレンズさんに使いたくないし、今回みたいな時は関係ない子達まで巻き込んじゃうから、早く他の方法を見つけようと考えてるんだけど思いつかなくて…。辛い思いをさせてすまなかったね。」


キュルル「僕は大丈夫です。大変そうだったのはビーストの方…」


すると屋根から声がした。

ゴリラ「いや、かばんさんが止めてくれなかったら、ジャングルのみんなも巻き込んだ大ゲンカになってたよ。ただでさえ大事件が起きた後だったんだから。」


メガネカイマン「かばんさん、実は…、あの広場がめちゃくちゃにされちゃったんです。」



「あらかじめ時間と場所とルールを決めて、力比べをしてみたらどうだろう。」というかばんさんの提案で、そこで運動会が開かれる事になり、ジャングルのみんなで小石や落ち葉を掃除したりして準備を進めていたのだ。

そしていよいよ明日が大会の日だったのだが…、


クロヒョウ「ほんま楽しみやな姉ちゃん…、え⁉︎」

ヒョウ「なんやこれぇ⁉︎」


会場の様子を見にきたヒョウ姉妹が見たものは、見るも無惨に破壊された広場と、そこに佇むイリエワニとメガネカイマンだった。


ヒョウ姉妹はワニ2人が広場を荒らしたのだろうと食ってかかったが、2人は濡れ衣だと言い返した。

メガネカイマン「違います!私は大きな音が聞こえたので、ついさっきここに来たんです!」


イリエワニ「私はここで寝てたんだ。で、目が覚めたらこうなってた。」


ヒョウ姉妹が訝しんでいると、どこからか小さな声がした。

?「ろくに手伝わなかったくせに、ごちゃごちゃうるさいんだよ!」


ヒョウ姉妹「「なんやと⁉︎」」


?「負けるのが怖いから、こんな事したんだよなぁ?」


ワニ2人「「なんだと⁉︎」」


そうして4人が睨み合っているところへゴリラがやって来た。そしてまずは話し合いをしようと提案したのだが、互いに騒ぐばかりでまとまらない。仲は良いがヤンチャな4人組だ、口論は徐々にヒートアップし、一触即発の雰囲気となった。


ゴリラ『これは力ずくで止めるしかないか…。はぁ…、かばんさんのようにはいかないなぁ…。』

と、ゴリラがため息をついているところへ、キュルル達が通りがかったのだ。



ゴリラ「それで、こうなった訳を話した後、いくつか競技の内容を教えたんだ。そしたらそれを聞いたキュルルさんが、スケッチブックの紙で相撲を作ってくれて争いが収まった。けど、突然現れたフレンズに壊されてしまったんだ。」


かばん「そっか…。残念だけど運動会は後回しにして、まずはみんなで広場を元通りにしよう。」


それを聞いたサーバルは、さっきの事を思い返した。

サーバル「それもあの子がやったのかな?」


カラカル「やっぱりただの乱暴者よ!」


キュルル「ビーストは絶対そんな子じゃないよ!」


未だにビーストの肩を持つキュルルに、カラカルは声を荒げた。

カラカル「アンタがいっちばん危なかったの‼︎」


イリエワニ「ビースト?あれが噂のビーストなのか?」


かばん「そう呼ばれてるね。あの子は言葉のやり取りができないし、常に野生解放状態みたいなものだから、本人にそのつもりがなくても周囲を傷つけてしまう事もある。けど安心して。噂みたいな悪い子じゃないから。」


ゴリラ「うーん、ホントにそうなのかな?」


カラカル「信用できないっ!」


カラカルは本気で怒っている。キュルルが危うく襲われかけたのだから当然だ。他のみんなも半信半疑だったが、一番危険に晒されていたはずのキュルルが、目を輝かせながら叫んだ。

キュルル「だよね!あんな強くてカッコいいフレンズ、どこにもいないよ!さっきの事も、きっとなにか訳があるんだよ!」


それを聞いたカラカルは、呆れ顔でキュルルの頭を小突いた。

カラカル「アンタねぇ…、いい加減少しは怖がりなさいよ!」


そしてサーバルは、感心した様子で言った。

サーバル「かばんさんは物知りだね、すっごーい!」


するとかばんさんは、はにかんだ笑みを浮かべた。

かばん「ハハ、ありがとう。昔ちょっと関わりがあってね。それにあちこちから噂も集めているんだ。」

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