◉乱入!
ビーストは高い木の上で腕をさすっていたが、ようやく痺れが引いて、元のように動かせるようになった。すると、風がフレンズの匂いを運んできた。その中に嗅ぎ慣れない匂いを感じ取ったビーストは、木から木へと飛び移りながらその場所へと向かった。
そこではゴリラ、ヒョウ、クロヒョウ、メガネカイマン、イリエワニといったジャングルのフレンズ達と、サーバル、カラカル、ジャングルラッキー、そしてキュルルが紙相撲で遊んでいた。
そこへビーストがやってきた。するとみんなの中心からセルリアンの気配がした。不意に彼女は木から飛び降りると、その気配のする紙相撲に向かって急降下した。頭に紋章が輝き、腕が輝きに包まれた。そしてそれに思いっきり爪を叩き込んだ。
ズドォォォン!
ヒョウ姉妹&ワニ2人「「「「どわー⁉︎」」」」
その一撃で、紙相撲は地面ごと吹き飛んだ。そしてあまりの衝撃に、周りにいたフレンズまで吹き飛ばされた。だが襲撃に一瞬早く気づいたサーバルは後方に跳び、カラカルはキュルルを抱えてなんとか難を逃れた。
とっさにガードを固めて耐え凌いだゴリラは、もうもうと砂煙が立ち込める中で佇んでいる人影を見つめていた。やがてそれが晴れ、オレンジ色で体の大きなフレンズが姿を表した。
ゴリラ「フレンズ離れしたこの力…、もしかして、あの子が広場を壊したのか?」
ビーストは鼻をひくつかせながら周りをうかがった後、かすかなセルリアンの気配目掛けて突進した。しかしカラカルの脇を抜けキュルルの目前まで迫ったところで、なにかを思い出しそうになった。ビーストは急停止し、その子の顔をじっと見つめた。
ビースト『この子は…?ああ、なんだかとても懐かしくて安らぐような…。』
その子は、突然現れたビーストにびっくりしてへたり込んでいた。見た目や雰囲気からは、何も脅威は感じられない。
しかしその子が抱えているスケッチブックから、わずかではあるがセルリアンの禍々しい気配がする。
一刻も早く破壊しなければ!そう考えたビーストが、右の爪を振りかぶろうとしたその時…、
カラカル「その子から離れろぉ!!!」
キュルルの危機を目の当たりにしたカラカルが、ものすごい剣幕でビーストに飛びかかってきた。全身から赤い輝きが吹き出し、体のいたるところがまるで炎のように揺らめいている。
そのあまりの殺気に、ビーストの体がビリビリと震え、全身の毛がゾワリと逆立った。その威圧感は、先程のワニ口セルリアンの比ではない。
ビースト『これはっ…!半端な気持ちじゃ、こっちがやられる!』
ビーストはカラカルに向き直ると、全神経を相手に集中させた。そして両腕に持てる力の全てを注ぎ込み、迎撃の態勢を整えた。
カラカル「エリアルループクロ…」
サーバル「ダメーーーッ‼︎」
べしゃん!
カラカルが右手を振りかぶり、2人の爪がぶつかり合うかに思われたその瞬間、サーバルがカラカルの腰に飛びつき、そのまま地面に叩き伏せた。
堪らずカラカルは大声を出した。
カラカル「何すんのよサーバル‼︎」
そしてサーバルも怒鳴り返した。
サーバル「フレンズ同士ケンカはダメだよ‼︎まずはお話ししてみようよ!」
ビーストはそんな2人の様子を、呆然と見つめていた。
ビースト『助かった…。なんなんだよあのもの凄い気は…。』
しかし今度は、複数の殺気がビーストに注がれていた。先程吹き飛ばしたフレンズ達が起き上がり、険しい目つきで彼女を見ている。そんな張り詰めた空気の中、ジャングルの奥から何かが飛んできた。
それは赤い紙で折られた紙飛行機だった。そしてビーストの目の前でパンッ!と大きな音をたてて破裂した。するとそこから大量の煙が吹き出してきた。
ビーストは驚いて、思わずヒッと息を吸いこんだ。その途端、鼻の奥が焼けるような感覚と共に、目がものすごく痒くなった。
ビースト「ぶわっくしょ!ゲホッ、ブホッ‼︎」
そして大きなくしゃみと一緒に大量の涙と鼻水が流れ出し、呼吸が苦しくなった。これは堪らない。ビーストは慌ててその場から立ち去った。
キュルル「ゴホゴホッ。」
煙に巻き込まれたキュルルが咳き込んでいると、ジャングルの向こうから何かの音が近づいてきた。
ドルルルル…、ブォン!
すると茂みの中から、一台のオフロードカーが飛び出してきた。
そして運転席から誰かの声がした。
?「乗って!早く!」
サーバル「え?誰なの…。」
ゴリラ「あれは大丈夫だ、乗ろう!」
カラカル「キュルル、しっかり!」
カラカルはキュルルを抱えて、サーバルと一緒に車に乗り込んだ。
そしてゴリラ達は屋根に飛び乗った。
ゴリラ「みんな乗ったよ!」
?「よし、出発するよ!」
キュルル「ゴホッ…、待って、ビーストが…」
キュルルは絞り出すような声で訴えたが、車は勢いよく走り出した。
そして上空からあたりを警戒していた誰かがこう呟いた。
??「『逃げるは価値』、力だけが全てではないのです。」
その子は茶色い鳥のフレンズだった。そして音もなくオフロードカーを追いかけていった。
一方、森の中へと逃げ込んだビーストは、大きな木の下でうずくまっていた。涙と鼻水は落ち着いたが、まだ目がしょぼしょぼする。
ビースト『ぶぇ…、鼻が効かない…、なんだったんだあの煙…。』
顔をくしくしこすっていると、疲れがどっと押し寄せてきた。そういえば、ろくに休みもせずにサバンナからここまで走ってきたのだった。
ビースト『これじゃ捜索もできないな…。仕方ない、一休みしよう…。』
そして瞼を閉じると、すぐに寝入ってしまった。
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