◉セルリアン討伐は全てに優先する
それから長い年月が過ぎた。私はパーク中を回りながら、くる日もくる日も戦い続けた。いい加減嫌になる時もあったが、あまり休んでいると頭の中にあの声が響いてきて、私を追い立てるのだ。
その頃にはビーストの噂はパーク中に広まっていたが、相変わらず私の正体を知るフレンズはいなかった。
すっかり戦いにも慣れ、私はセルリアンを倒す騎士として、立派にパークとフレンズ達を守っている。ならばもっと誇らしい気持ちになっても良さそうなものなのに、なぜか心が満たされなかった。これはおそらく黒い輝きのせいだろう。
いつからなのかは定かではないが、戦い続けていると、私の体から黒い輝きが噴き出すのだ。そうすると、頭の中が破壊衝動という黒い思考で埋め尽くされてゆく。
グッと堪えれば一時的に収まるが、戦闘をきっかけにまた吹き出してくる。そのためどうしても堪えきれない時は、周りにフレンズがいないか細心の注意を払った上で、周囲の地形ごとセルリアンを吹き飛ばして衝動を発散させた。
しかし気分が落ち着いた後、破壊され尽くした大地を見て、私は自分の力に恐れおののき、激しい後悔に襲われるのだ。
フレンズ達を見ていると、運動や創作など、みんなさまざまな方法で楽しい時間を過ごしている。だが私は戦いしか知らず、これがなくなったらどうすれば良いのか分からない。
しかし戦い続けていても心は満たされず、事あるごとに黒い輝きが吹き出してくる。今はなんとか抑えられているが、もし今より衝動が強くなり、私が私を制御できなくなってしまったら…、本当にフレンズに襲いかかり、食べてしまうかもしれない。
そんな事になったら耐えられない。私はどうしたら良いのだろう。
『もういっそセルリアンしかいないエリアへ行って、未来永劫戦い続けていられたらいいのに…。』
不安でいっぱいな私は、時折こんな事を考えるまでになっていた。
ある日の事、私は久し振りにサバンナを訪れた。ここには多くのセルリアンが蠢いていて、気配だけではどのくらいの大きさのやつなのかなかなか判別できない。
小さいやつらを蹴散らしながら歩いてゆくと、懐かしい建物が見えてきた。私は思わずそこへ足を運んだ。
隙間から覗くと、相変わらずこの建物の内部は不思議な空気で満たされていた。これが私がここで眠っていた所為なのか、建物の材料によるものなのか、あるいはあの黒くて丸い物質によるものなのかは分からないが…。
とここで、私は違和感を感じた。黒い球体の表面が割れ、破片があたりに散らばっている。ふらりと建物の中に入ってみると、何人かのフレンズのものの他に、嗅いだことのない匂いがした。それは球体から外へと続いている。
『でもなんだろうこの感じ、なんだかとても懐かしいような、嬉しいような…。』
私は外へと飛び出し、その匂いを追いかけた。するとその向こうから大きなセルリアンの気配がしたので、私は猛然と駆け出した。
そこへたどり着くと、はたして巨大なセルリアンが、走っている箱を追いかけていた。そして一瞬体を縮めると、箱目掛けて飛びかかった。もはや一刻の猶予もない。
「グォオオオオー!」
私は雄叫びを上げながらセルリアンに飛びかかった。頭にトラ縞模様が現れ、全身が白い輝きで覆われてゆく。そして爪を思い切り突き刺した。するとセルリアンは、大きな叫び声とともに木っ端微塵となった。
そのかけらが降り注ぐ中、私はどんどん小さくなってゆく箱を見つめていた。すると右腕から黒い輝きが吹き出し、全身がゾワリと震え、衝動が押し寄せてきた。
『もっと…暴れタイ…!』
しかし私は、慌てて腕を掴んで頭をブンブンと振った。すると縞模様と黒い輝きは消え、気持ちが落ち着いた。
チラッとしか見えなかったが、走り去っていった箱の中には、2人のフレンズと見慣れない格好をした子がいた。初めて会ったはずなのに、なぜかその子の顔が目に焼きついて離れない。そこで私は、あの箱を追いかける事にした。
そのまましばらく走っていると、私は箱に追いついた。中の3人が窓にピッタリ張り付いて、じっとこちらを見ている。飛び乗ろうかと思った時、かすかにセルリアンの気配がした。どうやら風に乗って移動しているようで、それがどんどん遠ざかってゆく。
あの子も気になるが、こっちの方が気がかりだ。私はその気配を追う事にした。
走る箱を追い越した時、何故か胸の奥がキュッとした。けど…、
『…これでいいんだ。私はセルリアンと戦う騎士なんだから。』
こう自分に言い聞かせ、私はそのまま走り続けた。
それから丸一日ほど走っただろうか。さすがにくたびれてきたところへ、目の前に大きな森…、ジャングルエンが見えてきて、それと同時に気配が消えた。
ここには多くのフレンズをはじめとした生き物達が暮らしていて、セルリアンの気配も紛れやすい。
私は用心しながら森の中へと足を踏み入れた。
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