◉食べてしまったのか⁉︎
白い子は逃げてしまった。私はしばし呆然としていたが、さっきの声を思い起こした。
『私、ビーストっていうのか…。それに喰われるって…、そんな事しないぞ!』
私はあの大きな怪物を、頭の中の声に従って破壊した。その途端声が止んだ事から考えて、おそらくあれがセルリアンなのだろう。だが追われていた子を攻撃しようとは微塵も思わなかった。しかし私には、眠る前の記憶が全くない。
『…もしかしたら覚えていないだけで、私はあの子の仲間を食べてしまった事があるのかもしれない。』
そう考えると、自分が恐ろしくなった。
もしそれが本当なら、私はあの箱から出るべきではなかった。とてもじゃないが、そんな危ないやつと一緒に生活する事はできないだろう。知らなかったとはいえ、あれを壊してしまったのはまずかった。
それならばと、私はあの子達と離れて暮らす事にした。
私は感覚が鋭かった。ある程度近づけばあの子達やセルリアンの気配を正確に感じ取る事ができたため、隠れて生活するのは簡単だった。それと話すことはできないが、大体の言葉を理解し、表情や仕草から相手の感情を読み取る事はできた。
そうして物陰からこっそりあの子達の様子をうかがっているうちに、この世界の事がだんだんと分かってきた。
ここはジャパリパークという大きな島の、サバンナという場所らしい。またここ以外にも、さまざまなエリアが存在するそうだ。
そして私と同じように2本足で歩き、全身が毛皮に覆われたあの子達はフレンズというそうだ。フレンズはパークの各所で、楽しく暮らしているらしい。
そんなフレンズの天敵…、姿形は様々だが、私が敵だと思ったやつらが、やはりセルリアンだった。とても恐ろしい存在で、食べられたフレンズは輝きを奪われ、動物に戻ってしまうらしい。
フレンズ達の行動から考えるに、彼女達は私のような強い力を持っていないようだった。そこで私は毎日サバンナを歩き回り、セルリアンを片っ端から蹴散らしていった。こうしていると、頭におかしな声が響くこともなかった。
戦いが始まると、頭が熱くなって体から白い輝きが噴き上がる。
この熱の原因はしばらくの間謎だったが、ある日泉に映った自分の姿を見て、トラ縞模様の輝きが浮かび上がっている事を知った。ほどなくして跡形もなく消えてしまったが、これは一体なんなのだろう?
ただ私は、自分の力を扱いかねていた。有り余る力を制御しきれず、セルリアンと戦うたびに周りの木々や岩まで吹き飛ばしてしまう。このままではあの素晴らしい景色も台無しになってしまうかもしれない。それにもし、フレンズを巻き込んでしまったら…、私は自分を許せないだろう。
さらにいくら隠れて暮らしているとはいえ、これだけ派手に暴れているのだ、注目されないわけがない。次第にフレンズ達の間で、私の噂が広まりだした。いくら広いサバンナでも、これでは見つかってしまうのも時間の問題だった。
そう考えた私は、セルリアンと戦いながらパーク中を回ることにした。一箇所に留まらなければフレンズに見つかる事はないだろうし、もし本当に私がセルリアンと戦う騎士なのだとしたら、これが私の生き方なのだろう。
こうして私はパーク中を駆け回り、戦いに明け暮れる日々を送った。そうしているうちに体の扱いにも慣れ、周りへの被害も減ってゆき、さらなる力を引き出せるようになった。
時折、倒したと同時に喋りだすセルリアンに出くわした。その内容は、多少の違いはあったが概ねこうだった。
「そいつはビースト、早く逃げないと喰われるぞ!」
そういったセルリアンの姿形はさまざまだったが、決まってフレンズを追いかけ回していた。そしてそれを聞いた子は、あっという間に逃げ出してしまう。
それはとっても寂しい…、いやいや、相手の方から離れてくれるのだ、私にとっては好都合だった。
しかしなぜセルリアンは、私がフレンズを食べた時の事を知っているのだろう。もしかしたら、いつか私が眠る前の事を教えてくれるヤツが現れるかもしれない。
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