ビースト編

◉ここはどこ?私は誰なんだ?

私は狭くてうす暗い箱の中で目を覚ました。箱には太くて丈夫そうな鉄の棒が何本もはまっていて、隙間からは壁と窓が見える。そこから差し込む明かりが、周りをぼんやりと照らしている。どうやらここは建物の中らしい。そして右の方を見ると、ヒト1人が入れるくらいの黒い球が置かれていた。


私は自分が何者なのか、ここがどこなのか全く分からなかった。ジャラジャラと音がしたので腕を見てみると、両手首に真っ黒で厳つい輪がはめられていた。


しばらくぼんやりしていると、突然頭の中で声がした。

【戦え…、戦え…!】


途端に体中の毛が逆立った。私はその声に追われるように立ち上がると、目の前の太い鉄の棒に手を掛けた。


グワッシャアアン!

それは私が力を込めるとあっけなくひん曲がった。その隙間をくぐって箱の外へ出ると、思い切り床を蹴って跳躍し、建物の天井をぶち抜いて外へ出た。その途端、強い光が目に飛び込んできて、私は思わず目を閉じた。


しばらくして目を開けると、雲ひとつない青空の下に、広大な世界が広がっていた。あちらにはオレンジ色の広い大地、こちらには豊かな森が広がっていて、耳をすますと木々の葉の擦れる音や風のそよぎ、そこで暮らす生き物達の声が聞こえる。

『わぁ…、なんて綺麗なんだろう…。』


私はそれらをうっとりしながら眺めていた。すると、また頭の中で声がした。

【戦え!お前はセルリアンを倒す騎士だ!】


それを聞いて、私は反射的に飛び出した。


走りながら、私は考えた。

『セルリアン?騎士?なんだそれ⁉︎私は何をすればいいんだ⁉︎』




その建物のそばの森の中で、白い毛皮で覆われた小さなフレンズが、太い木の陰から顔をのぞかせている。

コアリクイ「…よし、誰もいない!」


ミナミコアリクイはそこから飛び出すと、警戒しながら森の中を歩きだした。もともと用心深く臆病な性格だが、数日前からフレンズが野生解放できなくなり、セルリアンが多くなったため、一層注意深く歩くことにしたのだ。


すると背後からガサッと音がした。

コアリクイ「ひっ!」


思わずバッと振り返り、両手を上げて威嚇のポーズをとった。けれどもそこには何もおらず、気配もない。

コアリクイ「なんだぁ、風の音かぁ〜。」


彼女はほっとして、再び歩き始めた。が…、

コアリクイ「ぶっ⁉︎」


道の真ん中に落ちていた巨大な岩にぶつかった。

コアリクイ「いったぁ〜。こんなとこに岩なんてあったかなぁ?」


するとその岩がズズッと動いた。なんとそれは岩などではなく…。

コアリクイ「せっ、セルリアンだーっ!!!」




私は闇雲に森の中を駆け回った。すると前方から嫌な気配がした。そして誰かの悲鳴が聞こえた。

コアリクイ「助けてぇー!!!」


何が何だか分からないまま、私は一目散にそこへと向かった。


そして目に飛び込んできたのは、全身が白い毛で覆われた小さな子が、大きな怪物に追いかけられている光景だった。そいつは四角い顔の中に筒状の目が2つ並んでいて、2本の細長い触手を蠢かしながらその子を追っていた。


コアリクイ「あっ!」

その子は木の根につまずいて転んでしまった。そして怪物が、その子に向かって触手を勢いよく伸ばした。


【戦え!セルリアンを倒せ!】

頭の中に大きな声が響き渡ると同時に、感情が高ぶり体中が震えた。そして頭が熱くなり、体中が白い光で包まれた。


「グオオオオーッ!」

私は雄叫びを上げながら思い切り地面を蹴った。そして相手に飛びかかり、右の爪を叩き込んだ。


ズガァァン!

セルリアン「ギョロロロローッ!」

大きな叫び声を上げながら、ぱっかーん!という音と共に怪物は弾け飛んだ。


キラキラしたかけらが降り注ぐ中、私は自分の力に驚いて、動くことができなかった。

『あんなに大きな相手が一瞬で粉々に…!なんなんだこの力は…。」


そして自分の両手をまじまじと見つめた。とても大きくて不器用そうな手に、真っ黒な鋭い10本の爪が生えている。


『そうだ、あの子は大丈夫かな。』

追いかけられていた子の様子が気になって、私はその子の方を見た。




ミナミコアリクイは、目に涙を浮かべながらガタガタと震えていた。転んでしまい、もうダメだと諦めかけたその時、大きな叫び声とともにぱっかーんと大きな音がした。


恐る恐る顔をあげると、双眼鏡の顔をした大型セルリアンのきらめきが降り注ぐ中、頭にトラ模様の紋章のあるフレンズが、鋭い目つきでこちらを睨んでいる。するとどこからか小さな声がした。

?「そいつはビースト、早く逃げないと喰われるぞ!」


ビースト『えっ⁉︎』


コアリクイ「ふぇ⁉︎」


ミナミコアリクイはパニックになり、大慌てでその子の前から逃げ出した。

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