◉アンタ誰?
3人は森の中に建っている、白い建物に向かって歩いていた。先頭を歩くキュルルの背中を見ながら、カラカルは彼と出会ってからの事を思い返していた。
カラカル『…いつの間にか、ずいぶんたくましくなったわね。この森で初めて会った時は、あんなに震えてたのに…。』
あれはヌシが現れた数日後の事だった。いつものようにサーバルと手分けして見回りをしていると、見慣れない子が森の中をビクビクしながらさまよっていたのだ。
カラカルは、茂みに隠れながらその様子をうかがった。
カラカル『セルリアン…には見えないわね。新しく生まれたフレンズかしら?』
試しに茂みをガサガサしてみると、その子は驚きのあまり飛び上がった後、恐る恐る振り返った。その隙に、カラカルはその子の前に回り込んで声をかけた。
カラカル「…アンタ、なんのフレンズなの?」
?「うわぁぁぁ!!!」
するとその子は驚いて、大きな悲鳴をあげて腰を抜かした。
パッと見その子の頭には、フレンズなら誰しも持っているはずの耳や角がない。一枚だけついている羽では、到底飛べるとは思えない。さらによく見てみると、顔の両脇に、丸い形の耳がちょこんと生えていた。そしてヒョロヒョロの小さな体には、爪も牙も尻尾もない。
カラカル「弱そう…。ねえ、なんでこんなトコにいるのか知らないけど、さっさとここから出たほうがいいわ。でないと…。」
これ以上怖がらせないようやんわりと話しかけたのだが、その子は全身をガタガタと震わせながら、ボロボロ涙を流している。口をパクパクさせているが、どうやらうまく言葉が出てこないようだ。
カラカル「ちょっと、聞いてるの⁉︎」
ここでカラカルは、その子が自分の後ろを見ている事に気づいた。そして背後から、ブオンッと風を切る音がした。
カラカル「!!!」
カラカルはとっさにその子の手を掴むと、一目散に駆け出した。
ズドォォォン!
するとついさっきまで2人がいた所に、巨大な腕が振り下ろされた。その一撃で地面がえぐれ、周りの木が吹き飛んだ。
カラカルはその子の手を掴んだまま、森の出口へ向かって必死に走り続けた。その子は喘ぎながらも、なんとか声を絞り出した。
?「何…あれ…?」
カラカル「知らないの?セルリアン!捕まったら食べられちゃうのよ‼︎」
?「食べ…⁉︎」
そしてようやく2人は森を抜けた。すると目の前に、大きな木がズシンッと落ちてきた。
カラカル「くっ…!」
振り返ると、球形の体を3本の太い腕で支えたような形をした大型セルリアンが、体の真ん中にある巨大な目をギロギロさせながら凄い勢いで迫ってきていた。
こうなったらもう戦うしかない…!カラカルはその子を庇うように立ちはだかると、キッとセルリアンを睨みつけた。一方怯えきっていたその子は、目を潤ませながら叫んだ。
?「たっ、食べないでーっ!」
すると上空から誰かの声がした。
サーバル「食べさせないよっ!」
キュルルが思わずハッと顔を上げると、金色のフレンズ…、サーバルが爪を構えながら空から急降下してきて、セルリアンの背中の石に強烈な一撃を加えた。
ピシッ!
それにより石にヒビが入ったが、セルリアンはグンっと腕を伸ばして体をのけぞらせ、サーバルを弾き飛ばした。
しかしそれを見たカラカルは、すかさずセルリアンの体の下へ潜り込むと、思い切り地面を蹴って、右の爪で渾身の一撃を叩き込んだ。
伸び上がっていた所を下から強く押し上げられたのだから堪らない。大きくバランスを崩したセルリアンは地面に転がって半回転し、背中の石をさらけ出した。
先程吹き飛ばされたサーバルは、一本の木に叩きつけられそうになっていたが、空中で何度も回転して体勢を整えると、その木の幹に着地した。そして幹を全力で蹴ると、セルリアンの石目掛けて一直線に向かっていった。
それを見て、カラカルもセルリアンに飛びかかった。
サーバル「いっくよーカラカル!」
カラカル「よーし、せーのっ!」
サーバル「烈風のサバンナクロー!」
カラカル「エリアルループクロー!」
掛け声と共に2人が同時に攻撃を繰り出すと、巨大なX字の斬撃がセルリアンの石を粉々に打ち砕いた。
セルリアン「ギョォォォォォッ!」
そして絶叫と共に、大型セルリアンは弾け飛んだ。
カラカル「ふうっ、手強かったわね。大丈夫、サーバル?」
サーバル「へーきへーき!遅れちゃってごめんね。…ところで、この子は誰?初めて見るよ。」
カラカル「森の中をウロウロしてたんだけど、何のフレンズか聞いても答えないのよ。」
見ると、その子は震えながらへたり込んでいた。2人はその子のところまでやってくると、自己紹介をした。
サーバル「はじめまして!私はサーバルキャットのサーバルだよ!君は何のフレンズなの?」
カラカル「カラカルよ。アンタ、セルリアンはやっつけたんだから、もう怖がらなくてもいいのよ?」
するとその子は立ち上がり、涙目ながらも興奮に身を震わせながら叫んだ。
?「2人とも、すっごくカッコよかったよ‼︎」
それから話を聞いてみると、その子は自分が誰なのかも、どこに住んでいたのかも分からないそうだった。
カラカル「動物だった時の記憶がない子は沢山いるけど、何のフレンズなのかも分かんないってのは珍しいわね。…にしても変わった格好ね。」
サーバル「頭になんにもないし、フードも被ってない…、もしかして君、ヒトなんじゃないかな。」
?「ヒト?」
カラカル「それって、アンタが昔一緒にいたっていうフレンズの事?」
サーバル「うん。その時の事はあんまり覚えていないんだけど、こんな格好だった気がするんだ。」
カラカル「ふーん。…この子はこう言ってるけど、どう?」
?「うん…、分かんないけど、そうかもしれない。」
カラカル「まあ、あんまり気にしなくても大丈夫よ。きっといつか分かるでしょうし。なにせこの子だって、分からない事いーっぱいあるのよ。」
サーバルは、過去の曖昧な記憶を持っていた。先程のヒトの事や胸に付けた赤い羽の事など、おぼろげなイメージはあるが、それ以上はどんなに頑張っても思い出せないのだという。
サーバル「そうそう。でも強くて速くて素敵な大親友と一緒にいられて、悩む事なんてないよ!」
カラカル「ちょっ…恥ずかしいからやめて!…けど、名前がないのは不便よね。」
?「僕、名前は…、」
きゅるるるるっ!
するとその子から変わった音がした。それを聞いたサーバルとカラカルがキョトンとした顔をしていると、その子は恥ずかしそうにお腹を押さえた。
サーバル「変わった鳴き声…、なら、キュルルちゃんでどうかな?」
カラカル「え…、ちょっと安直すぎない?」
?「僕は…、あの…。」
サーバル「よろしくね、キュルルちゃん!」
そう言って、サーバルはサッと右手を差し出した。
キュルル「よ、よろしくっ!」
そしてその子は戸惑いながらも、その手を両手でギュッと握り返した。
カラカル『受け入れたっ!アンタそれでいいの⁉︎』
きゅるるるる…。
するとまたキュルルから音がした。
サーバル「あはっ、やっぱりキュルルちゃんだ!」
キュルル「あう…、安心したらお腹が鳴っちゃって…。」
カラカル「お腹の音だったのね。じゃあご飯にしましょ。あたし達についてきて。」
そう言うとサーバルとカラカルは、キュルルを連れて歩き出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます