けものんクエスト 孤峰(こほう)の騎士
今日坂
サバンナ編
◉セルリアンだらけ
サンドスターという謎の物質の力によってヒトのような姿となった動物達…通称フレンズは、ジャパリパークという巨大な島のあちこちで楽しく暮らしていた。
そんなある日、突然フレンズから野生解放が失われた。そしてその日を境に、各地で大型セルリアンがよく目撃されるようになった。
ここはそんなパークのエリアのひとつサバンナ。
短い草に覆われたオレンジ色の広大な大地には、所々に大きな木が生えている。一見乾燥した過酷な土地にも見えるが、少し離れた所を見てみると、点在する泉の周辺には草木が青々と生い茂っていて、その向こうには森が広がっている。
このように場所によって多様な環境を見せるサバンナでは、沢山のフレンズ達が暮らしていたのだが、最近はめっきり少なくなっていた。
ここでは特にセルリアンの問題が深刻化していて、フレンズ達の生きる場所は日に日に脅かされていた。
かつてはフレンズ達で賑わっていた広場も、今聞こえるのは風の音と草木のざわめきだけだった。しかしそんな中、突然大きな悲鳴が響き渡った。
?「うわぁ───!!!」
そちらを見ると、青色の子が見上げるほどの大きさのセルリアンに追いかけられている。そいつはデジカメに球形の関節が連なった三脚をくっつけたような姿をしていて、レンズの部分には巨大な一つ目がついている。
その子は必死に走っていたが、セルリアンの足の方が速い。徐々にその差は縮まっていった。
するとその子の前に細長い溝が現れた。その子はそれを飛び越えると、今度はジグザグに逃げ始めた。そしてセルリアンが溝を乗り越えて一歩踏み出した瞬間、ズズンッという音と共にその足が地面に埋まった。
するとその子は振り向き、声を上げた。
キュルル「よし、うまくいったよ!」
この子の名はキュルル。
青い羽のついた水色の帽子を被り、黒いインナーの上に青いベストジャケットを羽織り、下は裾を捲った淡いグレーの長ズボンに水色の靴を履いていて、水色のショルダーバッグを肩に下げている。
この子はただ闇雲に逃げていたのではなかった。事前に溝の向こうに用意してあった落とし穴に、うまくセルリアンを誘導したのだ。
そしてキュルルの声を合図に、セルリアンの背後から、朱色と金色の2人のフレンズが同時に飛びかかった。
2人は手に力を込め、けものプラズムを集中させた。するとその手が輝きに包まれた。
朱色の子「エリアルループクロー!」
金色の子「烈風のサバンナクロー!」
そして2人は、セルリアンの石めがけ全く同じタイミングで爪を閃かせた。
2人「サバンナX(クロス)ッ‼︎」
2人の輝きが交差し、X字の巨大な斬撃が石に叩き込まれた。その強烈な一撃により、石は粉々に砕け散った。
セルリアン「グアオォォォーッ‼︎」
そして大きな叫び声と共にセルリアンの体が弾け飛び、キラキラしたかけらがあたりに散らばった。
そしてキュルルが2人に駆け寄ってきた。
キュルル「やったあ!ありがとうカラカル、サーバル!」
しかし朱色の子…カラカルは、唇を震わせながら黙っていた。その子はつり目で外ハネのロングヘアー、前髪には2つの黒い模様があって、大きな耳の先にはふさふさとした毛が生えている。
服装は袖のない白いシャツと長い手袋、首には蝶ネクタイのついた襟巻き、下はスカートとニーソックス、そしてお尻からひょろんと長い尻尾が生えている。
それに気付いたキュルルは、不安そうにカラカルを見つめた。
キュルル「大丈夫?どこか怪我しちゃったの⁉︎」
するとカラカルは、泣きそうな顔をしながらキュルルに抱きついた。
カラカル「心配したんだから!セルリアン相手に無茶しないで!」
そして金色の子、サーバルもこう言った。
サーバル「びっくりしたよ!まさか急に1人で飛び出すなんて!」
この子は丸っこい目とボブカット、前髪にはMのような模様があり、これまた大きな耳をしている。服装はカラカルと同じようなものだが、白いシャツのほかはどれも金色地に斑点模様が付いていて、縞模様のあるふっくらした尻尾をしている。そして胸には、一枚の赤い羽が揺れていた。
キュルルはカラカルに抱きしめられながら、申し訳なさそうな顔をした。
キュルル「ごめんね、僕のせいで2人が危ない目にあって欲しくなかったんだ。」
何があったのかというと…。
先程3人が森を歩いていると、カラカルとサーバルの耳に、大きなセルリアンの足音が聞こえた。慌てて近くの茂みに身を隠すと、はたしてデジカメ型の大型セルリアンがやってきた。
3人が息を潜めていると、きゅるるるるっ、と小さな音がした。
キュルルの名前の由来となった腹の音だ。それを聞いてデジカメ型がピタリと動きを止めた瞬間、キュルルは茂みを飛び出して、溝へ向かって一直線に走り出したのだ。
どうにか気持ちが落ち着いたところで、カラカルはキュルルを離した。
カラカル「アンタは爪も牙もないんだから、戦いはあたし達に任せなさい。あーあ、野生解放が使えたら、あれくらいのセルリアン、1人で倒せるのになー。」
瞬間的にフレンズの力を上昇させる野生解放は、対セルリアンの切り札として、かつては多くのフレンズが使うことができた。しかしある日を境に、突然使うことができなくなってしまったのだ。
それを補うため、一部のフレンズは複数でセルリアンに立ち向かうようになった。しかし本当に息の合った攻撃というのはなかなか難しく、今サバンナで大型セルリアンと戦えるのは、この2人だけだった。
サーバル「野生解放ってどんな気持ちなんだろう、やってみたかったなー!」
カラカル「そういえば、アンタがフレンズになったのは、みんなが野生解放できなくなってからだったわね。」
サーバル「うん!でもいいの、こうして大親友のカラカルと一緒に、誰かを守る事ができるんだもん!どんなセルリアンだって、2人で戦えばやっつけちゃうよ!」
それを聞いて、カラカルは顔を赤らめながらうつむいた。
カラカル「…まあ、ヌシには敵わないけどね。」
1週間ほど前に突如現れた、大型セルリアンよりも一回り大きな巨大セルリアン…、通称“ヌシ”に、2人は歯が立たなかった。どれだけ爪を叩き込んでも、傷ひとつつけられなかったのだ。幸いすぐどこかへ消えてしまったが、フレンズ達に恐怖を植え付けるには十分だった。
それから他のちほーへ引っ越すフレンズが一気に増え、今ここで暮らしている子は、数えるほどしかいなくなっていた。
それを聞いたキュルルがこうつぶやいた。
キュルル「ビーストが来てくれたらなぁ…。」
だがその言葉を聞いた途端、カラカルがムッとなった。
カラカル「またそれ⁉︎アンタはもう毎日毎日…、あんな乱暴者のどこがいいのよ⁉︎」
キュルル「だって、どんなセルリアンでも一瞬で倒しちゃうとっても強いフレンズだ、ってパーク中で噂になってるんでしょ?その子が来てくれたら、きっとヌシだってイチコロだよ!そしたらカラカルもサーバルも、ここで安心して暮らせるじゃない。」
しかしカラカルはかぶりを振った。
カラカル「あたしもはじめは、その子に会ってみたいなぁって思ってた。けど、フレンズにも見境なく襲いかかるようなやつって聞いて怖くなったの。安心してキュルル、そいつがいなくても、あたしとサーバルは大丈夫だから。」
そう言って、カラカルはキュルルの頭をポンポンと叩いた。
サーバルはその様子を黙って見守っていたが、それはカラカルの強がりである事は分かっていた。すでに2人がどんなに頑張ってもどうしようもないくらい、ここサバンナではセルリアンの脅威が大きくなっていたのだ。
しかしサーバルは、パッと明るい表情をキュルルに向けた。
サーバル「それじゃ、そろそろご飯にしようよ。」
キュルル「そうだね。ここは見晴らしがいいけどセルリアンに見つかりやすくもあるから…、やっぱりいつもの所で食べようよ。」
サーバル「さんせーい!あの2人も心配だしねっ!」
そう言うとサーバルは、先頭に立って歩き始めた。
キュルル「あ!そっちは…。」
キュルルは慌てて止めようとしたが遅かった。
ズボッ!
サーバル「うみゃ───!!?」
叫び声と共に突然サーバルの姿が消えた。そそっかしい彼女は、キュルルの落とし穴にうっかりはまってしまったのだった。
カラカルとキュルルは大急ぎで穴へと駆け寄った。
カラカル「サーバル⁉︎」
キュルル「しっかり、すぐ引っ張り上げるから!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます