第19話 出席番号男子10番・長谷川順 ①

 十二時になり、日付が変わった。十一月十九日、火曜日。

 ゲームが始まって七時間が過ぎていた。たった七時間で、十七人もクラスメイトが死んだ。十七人が死んで、ゲーム時間は一〇二時間短縮された。ゲームはあと六六時間、三日弱だ。

 内藤美嘉を除けば残りは十二人。

 男子は榊祐葵、篠原蓮生、長谷川順、平井達也、山口朋紘、それからぼくの六人。

 女子は市川鮎香、加藤麻衣、佳苗貴子、藤木双葉、八木琴弓、脇田百合子の同じく六人。

 この中に本当にいじめの首謀者はいるのだろうか。

「なぁ、内藤は誰を撃つと思う?」

 祐葵がぼくに尋ねた。

「わからない」

 ぼくはそう答えるしかなかった。

 そしてこれからの時間は、ぼくたちがはじめて経験する時間だ。

 復讐タイムと先生やいじめの首謀者は呼んでいた。

「時間です。内藤美嘉さん、今から五分だけあなたの持っている拳銃の安全装置がはずされます。あなたはいじめの首謀者だと思うものにむけて一発だけ拳銃を撃つことができます。撃つか撃たないかは内藤さんの自由です。撃たれた人が即死しなかった場合、苦しむ生徒をそのまま見殺しにするわけにはいきませんので、先生が介錯役を務めます」

 先生が内藤に告げた。

 内藤の持つ拳銃のかちりと音を立てた。安全装置が外れたのだ。

 誰がいじめの首謀者か、このゲームから生きて脱するためには内藤だけでなくぼくたちも考える必要がある。けれどその答えを出すのは非常に困難だった。

 消去法が一番、その答えに近づける気がした。あくまでぼくの主観だけれど、男子では祐葵や篠原が真っ先に外れる。祐葵はぼくの親友だし、篠原はぼくのために今電子ドラッグをハッキングしてくれている。

 ぼくは篠原を見た。偶然目があった。

 あともう少しだ、篠原はそうジェスチャーでぼくに伝えた。

 先ほど棗先生とちづる先生は、十一人の生徒を一瞬で射殺した。ひとりにつき銃弾は一発ずつ、全員即死だった。きっとそれは電子ドラッグが先生たちの身体能力を極限まで高めているからだ。

 先生はまるで時を止めるか瞬間移動のようなことをやってのけている。SF小説や映画にたまに出てくる加速装置のようなものなのかもしれない。ぼくもその域に達する必要があった。危険なことは承知の上だ。ぼくが先生と同じ域、あるいはそれ以上に達すれば、きっとぼくは先ほど十一人のクラスメイトを見殺しにしてしまったときのようなことをもう起こさないで済む。きっと、ぼくは銃弾よりも早い速度での行動が可能になる。銃弾が誰かに命中する前にぼくはその銃弾を弾き飛ばすことができるようになるはずだった。今は篠原の作業が終わるのを待つしかない。

 消去法の話に戻りたいと思う。平井達也、山口朋紘は電子ドラッグではなく、草詰アリスという女の子の名前をしたドラッグでトリップ中だ。命がかかったゲームの途中でドラッグでトリップするなんて、彼らが首謀者であるとは到底思えなかった。いじめの首謀者はきっと、ゲームの成り行きををずっと監視しているはずだった。

 となると、男子でいじめの首謀者かもしれないのは、長谷川順だ。半年間同じ教室で過ごしてきたけれど、ぼくは彼のことをよく知らない。ただ、ゲームが始まってから何度か彼の様子を確認していたが、彼はまるでゲームには無関心な様子だった。本当に感心がないのか、それとも無関心を装って、いじめの首謀者であることを気づかれないようにしているのか、ぼくにはわからない。

 女子で真っ先に外れるのは鮎香だ。彼女もぼくの親友で、ぼくは先ほど彼女から告白をされたばかりだった。そんな彼女がいじめの首謀者であるはずがなかった。

 加藤麻衣と脇田百合子のカルト教団コンビは何を考えているかはわからない。けれど、大和省吾が最初に殺されたとき、それから他の生徒が死んだとき、彼女たちは死者たちを弔っていた。いじめの首謀者がそんなことをするだろうか。けれど、それすらも演技かもしれない。

 加藤はカルト教団の教祖の三女であると同時に美少女巫女であり、自らも布教活動に熱心で、学校内の信者の数も学校は把握しきれていないという。もしかしたら、教師たちの中にも信者がいるかもしれない。カルト教団らしく修業と称する荒行でよく信者が死んでいるような教団だった。もしかしたら、このゲームは教団がしくんでいるのかもしれなかった。

 脇田は加藤の親衛隊、ボディガードのような存在だ。もし脇田がいじめの首謀者だとしたら、彼女が守るべき加藤が殺される可能性が出てくる。脇田も除外してもよさそうだが、もし加藤がいじめの首謀者だとしたら、彼女の一番の協力者は脇田だということになる。このふたりの言動には注意しておいた方が良さそうだ。

 昨日までクラスの中心的女子グループだった内藤のグループのメンバー、佳苗貴子、藤木双葉、八木琴弓の三人は、内藤がいじめられる側に決まった途端、手のひらを返すように彼女のいじめに率先して参加した。同じグループのメンバーだった山汐凛がグループ内でいじめにあっていたように、もしかしたらこの三人も内藤に言い様に使われていたのかもしれない。だとしたら、彼女たちの誰かがいじめの首謀者の可能性がある。

 消去法で、もう少しいじめの首謀者について絞れるかと思ったが、男子はともかく女子は怪しい連中ばかりだった。いじめられる者が内藤だったから、女子だったから、女子が怪しいと男子のぼくが感じるのは仕方がないことなのかもしれない。

 内藤は大きく深呼吸をした。

 この復讐タイムで誰を撃つか、決めたのだろうか。

「長谷川」

 内藤は、ぼくが男子の中で一番いじめの首謀者かもしれないと思っていた生徒の名前を呼んだ。

「このゲームが始まってから、あんたずっとこのゲームに何の興味もないみたいな顔してるけど、何なの? 自分の命がかかってるのに。自分は関係ないって顔して、あんたがみんなに命令をだしてる。少なくともわたしにはそういうふうにみえるんだけど」

 内藤はどうやらぼくと同じ考えに行き着いたらしい。

 しかし当の長谷川は表情を一切変えることなく、淡々とこう言った。

「君がぼくをいじめの首謀者だと思うなら、撃ちたければ撃てばいい。ただ、ぼくは首謀者じゃないから、無駄弾になってしまうけれどね」

「そんなことやってみなきゃわかんないでしょ」

「ぼくはただ、どうしてこんなことが起きてしまったのか考えてたんだ」

 長谷川は言った。

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