第20話 出席番号男子10番・長谷川順 ②

「棗先生は、いい加減で適当でいつもめんどくさそうにしてた。けっしていい先生じゃなかった。でもこんなことをするひとでもなかったんじゃないかなってさ。先生はめんどうなことが何より嫌いなんだ。こんなめんどう極まりないゲームを準備してたとは思えない。これはいじめロールプレイ。先生も先生という役割を演じているだけじゃないかな。ぼくはこのゲームの準備をした主催者が別にいて、ぼくはそれが首謀者だと思っている。いじめロールプレイのアプリで、いじめられる者、つまり君といじめの首謀者が決められた。けれど、はじめから、君がいじめられることは決まっていて、いじめの首謀者がきみをおとしめるためだけにこのゲームを主催したのだとしたら。いじめの首謀者が誰か君は見当がつくんじゃないか。君を殺したいほどにくんでる、君を殺すためなら他の誰が犠牲になってもいいとすら考えている者、それがいじめの首謀者だよ」

 長谷川の考えは確かに一理あるような気がした。このゲームは出来すぎている。このクラスの女子の中心的グループのリーダーで、同じグループの山汐凛をいじめ、夏休みには売春を強要した内藤がいじめられる者に選ばれ、山汐が受けた苦しみを思い知らされている。

 けれど、その山汐は笹木舎から内藤を守ろうとした。そして、ルール違反を犯した罰として、先生に殺された。

 長谷川の言う通りだったら、首謀者は……。

「貴子、あんただよね」

 内藤は佳苗貴子に銃を向けた。

「あんた、わたしが凛をいじめようって言ったとき、一番に反対したもんね。琴弓も双葉も協力してくれたけど、あんただけは最後まで、凛をいじめなかった」

 銃を向けられた佳苗は、けれど怖がったり怯えたりする様子は見せなかった。

「わたしは凛のことが好きだった」

 佳苗は言った。

「妹みたいに思ってた。かわいくてかわいくて仕方なくて、あの子と過ごす毎日は楽しくて仕方がなかった」

 その言葉はまるで推理小説で探偵に追い詰められた犯人がする告白のようだった。まさか本当に、佳苗がいじめの首謀者なのか?

「あんたにいじめられて、売春までさせられた凛が、さっきあんたをかばったとき、ああなんてこの子はいい子なんだろうって思った。わたしが守ってあげたかった。守ってあげなきゃいけなかった」

 でも、と佳苗は言った。

「わたしは何にもしてない。いじめの首謀者なんかじゃない。けど、あんたがわたしが首謀者だと思うなら、別にそれでもいいよ。わたしは凛を守れなかった。凛がいない人生なんて考えられない。だからいいよ。殺して」

 佳苗は内藤に体を向けた。

「内藤さん、制限時間の五分が迫っています。あと60秒、59、58、57」

 先生が死のカウントダウンを始めた。

 内藤は本当に佳苗がいじめの首謀者なのか、佳苗を撃つべきなのか、考えあぐねていた。

「46、45、44、43、42、内藤さん、どうしますか? 今回は撃つのをやめておきますか?」

 先生のカウントダウンが30秒を切った。

「撃つわよ……撃たなきゃ、いじめの首謀者を殺さなきゃ、このゲームは終わらないんだから」

 けれど、銃を持つ内藤の手は震えていて、撃ったとしても命中しそうになかった。

 10秒を切った。

「撃ちなさい、内藤美嘉!」

 佳苗が叫んだ。

「うわああああああ」

 内藤も叫び、引き金が引かれた。

 パアン。

 乾いた音がして、佳苗の前に飛び出した篠原の体から血が舞った。

「篠原? なんで……?」

 佳苗は不思議そうな顔をして、銃弾に倒れた篠原に駆け寄った。

「なんでだろなぁ。お前みたいなキャバい女、好みじゃなかったと思うんだけど」

 篠原は言った。

「なんで? どうして? どうしてあんたがわたしなんかをかばうの?」

 佳苗は泣きながら言った。

「ついさっき、このゲームで俺がするべきことが終わったんだ」

 篠原は言った。

「それが終わるまでは俺は死ぬわけにはいかなかった。だから、何人もの連中が目の前で死んでいくのを俺は黙って見てるしかなかった。けど、もうそれも終わった。これ以上誰かが死ぬのは御免だ」

 そして彼は、

「秋月」

 ぼくの名前を呼んだ。ぼくも彼に駆け寄った。

「頼まれたものが完成した。アプリを起動させてしばらく見てろ。すぐに電子ドラッグがお前を超人に変えてくれるはずだ」

 篠原はぼくに携帯電話を渡すと、その手が力なく床に落ちた。

「篠原、おい、死ぬな、篠原!」

 ぼくは篠原の体をゆさぶった。

「いじめの首謀者も、誰か、わかったぜ」

「誰だ? 誰が首謀者なんだ?」

「首謀者は……」

 ぼくの問いに篠原は答えようとして、そして、死んだ。

 またいじめの首謀者じゃない奴を死なせてしまった。いじめの首謀者が誰なのか篠原はたどり着いていた。それなのに、死なせてしまった。

「あ、いい忘れてましたが、この教室は狭いですから、流れ弾とか跳弾にまで先生責任もてないんで、各自アテンションプリーズでよろしくです」

 先生がそう言って、そして、ドサッと音がして、山口朋紘が椅子から転げ落ちた。

「あ、ちょっと遅かったみたいですね。すみません。ま、でも彼はドラッグでトリップ中ですから、きっと自分が死んだこともわからないからいいでしょう」

 先生は山口に歩み寄ると、

「この次はみなさん気をつけてくださいね」

 額に銃口を押し付けて引き金を引いた。

 また関係ない奴が死んだ。

 そして、拳銃を胸元にしまうと、拍手をした。

「内藤さん、はじめての復讐タイム、お疲れ様でした。そして佳苗さん、とても感動的でしたよ。先生、ちょっと泣いてしまいました」

 ぼくは佳苗を見た。握り締められた拳から血が流れていた。確か彼女は長い爪にいつも綺麗なネイルアートをしていたはずだった。それが肉に食い込んでいるのだ。

 ばっと佳苗の体が動いた。先生に殴りかかろうとしているのだとすぐにわかったぼくは、彼女の前に立ちふさがった。

「どいてよ、秋月。こいつだけは許せない」

 佳苗が言った。

「どけない。お前を先生にむざむざ殺させるわけにはいかない。篠原にもらった命だろ。大事にしてくれ」

 ぼくは言った。

「先生も、いじめの首謀者も、ぼくがなんとかする。だからここはこらえてくれ」

 ぼくの必死の説得に、佳苗は握りしめていた拳をといた。

「鮎香、この子の手を看てやってくれ」

 ぼくは鮎香にそう言って、篠原が遺してくれた携帯電話を見つめた。

 ぼくがこの手で、絶対このゲームを終わらせる。

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