第4話

 土曜日、二人はショッピングセンターに来ていた。

「ター君が『マドレーヌがいいと思うけど、アイツはマドレーヌが何か知らないみたいだから、店に連れていってやってくれ』って言ってたよー!優しいよね!」

「鷹にいが、優しい……?」

「え、優しくないの!?」

「それ、相手が史姉さんだからだと思うけどなぁ」

「え」

「好きな人にはとことん甘いんじゃ?」

「すっ……!……も、もう、ヨシ君っ!からかわないでよー!」

 そんな感じで雑談しつつ、しばらく歩いていたら史夏が足を止めた。

「ここの専門店だよ。私もター君もお気に入りなのー!めちゃくちゃ美味しいから、ミカちゃんも喜ぶと思うよー。せっかく来たんだし、私もター君に買っていこうかなぁ」

「いいんじゃないですか?」

「ふっふっふ~、どれがいいかなぁ」

「そういえば、鷹にいとはいつから付き合ってたんですか?」

「中等部の二年生からだよー」

「ええっ!?」

 驚く佳孝。

(中等部の二年生から、って……鷹にい、勉強しかしてなかったじゃん……一体いつの間に?)

 ちょっと失礼なことを考えつつ、マドレーヌを選ぶ。

「史姉さん、これはどう?」

「おお!いいじゃん!!私はこれにしよーっと」

 そんなこんなで、無事に手土産を選ぶことができた。



◆◆◆



 そして迎えた日曜日。

 学校で待ち合わせたら見つかることと美嘉の家が佳孝の家と真逆ということがあって、駅で待ち合わせることになった。

「どこだ……。あっ、いたいた!おーいっ、美嘉ーっ!」

「こっ、小高君。……じゃあ、行こう、か」

 やはり怯えているが、学校で呼び出した時よりはマシだ。

 二人で並んで歩く。

「あの、ごめんな?家に呼んでもらってさ」

「え、大丈夫……友達とかいつも呼んでるから」

「そ、そっか」

(会話が続かねぇ……)

 いつもは遠巻きにして友達とからかっているだけだった。そのため、美嘉と直接話したり近くで見たりするのは初めてだったのだ。

 女子と二人きりで話す、なんていう経験が全くなかったため、佳孝は緊張しまくっていた。


 しばらく歩いた。美嘉が白い門の前で足を止めた。門の奥には庭園や噴水があり、さらに奥には城のような家が建っていた。

「えぇ、ここって……」

「……私の家、です」

「豪邸じゃねーか!すげぇ!」

 佳孝は目を輝かせた。

「あっ、そうだ、これ」

「え?」

「手土産。食べるかって思って」

「あ、ありが……と」

 佳孝がいつもと違って嫌がらせをしてこない――それどころか優しいので、美嘉は困惑していた。

「お邪魔しまーっす……」

「こっちが私の部屋」

「お、おう」


 しばらく雑談を交えながら佳孝が持ってきたマドレーヌを食べたこともあって、二人はそれなりに打ち解けていた。

「どこがわかんないの……?」

「全部……」

「まずは問一からだよ。……ここは?」

「わからん……」

「この公式を使って――


 美嘉の説明はとても分かりやすく、佳孝でもすぐに理解できた。

「センセーに訊くよりわかりやすかった!」

「小高君、大袈裟……」

「いや、マジで。センセーに訊いてもわからなかったから!」

「えと、ありがとう」

 しばらく沈黙が続いた。それを破ったのは美嘉の方だった。

「あ、あの!」

「ん?」

「小高、君。スマホ持ってる?」

「持ってる」

「じゃあちょっと貸して」

「ん」

 何だろう、と思いながらスマホを渡す。

「これ、私の連絡先。わからないところあったら、また訊いてね」

「え、ありがとう!」

「じゃあ、またね」

「おう!絶対再テスト合格すっから!」

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