第52話 人喰い鬼の棲家

不健康な顔つきをした息子が、(彼は会話をしている間にそこへ入って来たのだが)、父親の笑いに唱和した。しかし彼の笑い声は老人のそれとはまったく異なったもので、冷笑のあざけりに汚れていた。僕は息子を観察したが、彼は笑い終えるとすぐ、まるで彼のでしゃばった追従によって引き起こされる何か悪しき結果を怖れるように、びくびくして見えた。奥さんは近くに立って、僕たちがテーブルの席に着くのを待ちながら、そうした全てをどこか楽しむような空気で聞いていた。彼女のまなざしには、大人ぶった子供の背伸びした一言を聞くような気色があった。僕たちは夕食の席につき、心ゆくまで食べた。僕の悲嘆はすでにはるか彼方に過ぎ去ってみえた。

「どちらの方向にあなたはゆかれるつもりかな?」と老人が尋ねた。

「東です」と僕はそれだけを答えた。それ以上明確に、僕は答えられなかったのだ。「この森はその方向に、もっと遠くまで広がっているのですか?」

「おうさ、何マイルも何マイルもずっとな。わしはどれくらい遠くまでか知らん。なぜってわしは生まれてからずっと森の境で暮らしてきたが、あまりに忙しくて、森の中を探索する旅ができなかったんでな。まあできたところでわしが何を見つけられたかもわかりゃしない。森には木々がずっとあるだけで、這入った人はそいつにうんざりするだけだろうさ。ところで、もしあなたがここから東の道をゆくのなら、子供たちが『人喰い鬼の家』と呼び、かつて『跳ね小人』が訪れ金の冠を着けたオーガの小さな娘たちを食べた、という場所の近くを通ることになるだろうさ」

「ちょっと父さん! 小さな娘たちを食べただなんて!! ちがうわ、彼はただ娘たちの黄金の冠をナイトキャップと取り替えただけよ。そのために、巨きな長い牙を持つオーガはまちがえて娘たちを殺してしまったの。でもあたしは鬼が娘たちを食べたはずないと思うわ。だって、彼女たちは彼の小さなかわいい鬼娘たちだったんだから!」

「わかったわかった、娘や、おまえはわしよりそういったことについてはずっと沢山知ってるからな。しかしな、その家はもちろん、ここらみたいなバカげた近隣の中でも悪名高い場所なんだ、実は打ち明けなくちゃならんのはその家に女性がひとり棲んでおって、十分に長く、白い歯も持っている。なんたって彼女はその、かつて生きた最も巨きいオーガ直系の子孫なんですな! わしが思うに、あなたは彼女に近づかぬ方がよろしいでしょうよ」

こうした会話を交わすうちに、夜は更けていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る