第45話 不可解な再会
最後の音がほとんど僕の耳朶から漂い去ったそのとき、入れ代わるように近くから低い、香わしい笑い声を僕は聞いた。それは声を聞かれたくない人のものではなく、ずっと、執拗に渇望していた『なにか』をまさに手にした人のような笑いだった――笑いは音楽のような低い呻きで終わった。僕はびくっとして、横の方を見、ぼんやりとした仄白い人影が、他より小さな木々とその下生えのもつれ合った灌木の傍らに座っているのを見た。
「僕の白き乙女!!」僕は言い、凝集する闇をつき抜かせて、自身を彼女の側にある地面に投げ出した。わずかなりともその人、僕の呼びかけが石膏の牢獄から解放した、彼女のまなざしを得ようと欲して。
「あなたの白い乙女よ!!」限りなく甘い声が言った。そのいらえに、言葉にならない歓喜が僕の心臓―この歓喜の絶頂に耐えるためにと、先日の昼夜起こった愛の魅惑のすべてが鍛えぬいた心臓を、言葉にならない歓喜が疾走り抜けた。しかし正直なところを言うと、その声の響きの中にか、あるいはこのなすがままで、あやかな戸惑い恥じらいが息をつめて待つ緩急のないさまに(彼女の声自体は甘美なものであったが)、そこには僕の内なる音楽と、調和し響き合わない『なにか』があった。またさらに、彼女の手を僕の手に取り、その美貌を求めて僕がさらに近寄ったとき(実際僕はあまりに豊潤な美しさを目にしたのだが)、冷たい身震いが僕を通り抜けた。でも、『これは大理石(のせい)だ』と僕は自分に言い聞かせ、それを無視してしまった。
彼女は自身の手を僕から引っ込め、その後ほとんど触れるのを許さなかった。それは奇妙なことに思えた。彼女は最初の熱烈な歓迎のあと、僕を信じられず傍に寄せない風だった。にもかかわらず、彼女のことばは恋人同士のそれだった。彼女は僕たちとの間を、1マイルの空間を隔てさせるように身を引いていた。
「あの洞穴で目を醒ましたとき、どうしてキミは僕から逃げたの?」僕は言った。
「わたくしが!?」彼女は答える。「それはなんと酷いことをあなたに……けれどわたくしにはよくわからなかったのです」
「僕はキミのことをちゃんと見たいよ。夜はとても暗い」
「その通りね。ならわたくしの洞穴にいらっしゃいな。そこなら明かりがあるわ」
「それってまた別のほら穴があるってこと?」
「来て見たらわかるわ」
しかし彼女は僕が先に立上がるまで動かず、そうして僕が座っている彼女に手を差し伸べる前に、自分の足で立った。
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