第42話 喪失
来たれ、眠りのまま歩き、眠りの森へと
やさしく貴方自身を連れ去るがよい
もっと甘美な夢が、その森にはあるのだ
貴方を取り巻く嵐は決して荒れ狂うことはない
また安息を求めることが愁眉となるなら
その時は貴方の洞穴へとそっと戻ればよい
さもなくば、もし貴方がまだ大理石たることを選ぶなら、その呪いを僕にもかけてくれ‼
貴方は僕の周りで微睡むがよい
また別の夢を貴方と共に見よう
再び僕は唄を止め、石膏の屍衣を透して彼女を凝視した…まるで射貫くようなまなざしの力によって、その愛らしい容貌をのすべてを明らかにしようと云うように。そして今! 僕は頬の下に横たえられた手がそっと、僅かに滑り落ちたように思えた!! だがそれから僕は、最初に見た手の位置が確かにそうだったか、確信を持てなくなった。だから、僕はふたたび謳った。なぜなら僕の憧憬は膨れ上がり、生きた彼女を見たい、という情熱的な切望となっていたから―
それとも女神よ、貴方は死の女神なのか?
だって僕は君の傍らで唄い続けてから
僕の生命は天空を諦めて、外界のあらゆる事象は僕の裡に死に絶えてしまった
そう、僕は屍だ。だって貴方は、僕の命すべてを貴方の元へと惹き下ろしたのだから…
死せる愛の月よ! 黄昏を昇らせたまえ
目覚めよ! さすれば闇は飛び去るだろう!
美しき石の無情なる淑女よ!
目醒めよ! 目覚めぬなら、僕はここで死のう
そうすれば貴方はもう永遠に一人になることはない
僕の身体と心は永久に傍にあり続けよう
だが言葉など虚しいだけだ
そんなものはすべてうっちゃってしまえ!
それらはほんの「さわり」だけしか語らない
……言葉の呼びかけからその「深み」を
僕の心臓の声なき憧憬を聴いてくれ
ぴしりと、微かなひび割れの音が生じた。忽然と現れて去る亡霊のように、白い姿の、純白のローブを軽やかに躰に纏った人影が石を割ってたち現れた!! 彼女は滑るように前に歩みながら、ほの白い軌跡を残しつつ森へと消える。驚きと歓喜による運動神経の凝集を取り戻し次第すぐに、僕は洞穴の入口まで彼女を追った。そして僕は木々の間に白い人影を見つけ、それは陽光が燦々と振り注ぐ森の端にある小さな空き地を横切って行った。太陽はそのまばゆいばかりの輝きをただひとつの対象へと凝集させ、彼女はその輝く湖上を歩んで通るというより、浮遊して渡るかのようだった。僕は去りゆく彼女を、絶望と共に凝視した。見出し、解放し、そして喪失った!! 追うことは無駄に思えたが、それでも僕は追わねばならなかった。
…ただもしあなたがそうした非常に美しい者たちに出会ったなら、その者たちを避けるようにしなさい」
「それは一体どういう……?」
「わたしにはこれ以上言えないの。でも今、わたしの髪の幾束かをあなたに纏わせます……そうしなければならないわ。そうすることでトネリコは、あなたに触れられなくなる。……さあ、幾束か切り取って。あなたたち人間は奇妙な刃物を身に着けているのでしょう?」
彼女はその長い髪をゆるく、僕を覆うように揺らせた。
「あなたの美しい髪を切るなんてできない! それは『恥』だよ」
「……わたしの髪を切れないですって!? 切った髪は充分長く伸びるわ……この樹海で
だが言葉など虚しいだけだ
そんなものはすべてうっちゃってしまえ!
それらはほんの「さわり」だけしか語らない
……言葉の呼びかけからその「深み」を
僕の心臓の声なき憧憬を聴いてくれ
ぴしりと、微かなひび割れの音が生じた。忽然と現れて去る亡霊のように、白い姿の、純白のローブを軽やかに躰に纏った人影が石を割ってたち現れた!! 彼女は滑るように前に歩みながら、ほの白い軌跡を残しつつ森へと消える。驚きと歓喜による運動神経の凝集を取り戻し次第すぐに、僕は洞穴の入口まで彼女を追った。そして僕は木々の間に白い人影を見つけ、それは陽光が燦々と振り注ぐ森の端にある小さな空き地を横切って行った。太陽はそのまばゆいばかりの輝きをただひとつの対象へと凝集させ、彼女は輝く湖面を通り抜けるというより、浮遊して渡るかのようだった。僕は去りゆく彼女を、絶望と共に凝視した。見出し、解放し、そして喪失った!! 追うことは無駄に思えたが、それでも僕は追わねばならなかった。僕は彼女が選んだ道に目ぼしをつけると、打ち捨てられた洞穴にもはや目もくれず、まっすぐ森へと急いだ。
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