第41話 女神への祈り1

僕は座って考えた。これまでいつも音楽に歓びを感じてはいたが、今妖精の森に入るまで、僕は歌う天稟を贈られてはいなかった。僕は声を持っていたし、正しい音感もあったが、声が音の感覚を、あるいは音の感覚が声を、互いに満足させることができなかったので、僕はずっと歌わなかった。ところが今朝、僕は自分が意識しないうちに、歌の喜びの中にいることに気づいたのだ。ところがそれが妖精の森の果物を食べる前なのか後なのかという疑問について、僕は自身を満足させられなかった。しかしながら僕は、それは食べた後だろう、と結論づけた。そして僕はどんどん増してゆく歌いたいという衝動を今まさに感じ、その衝動は、洞穴の隅できらめく瞳のように輝いているあの泉の水を飲んだことにも幾分依っている気がした。僕はその『誕生前の墓地』の側にある盛り土に腰を据え、石の中にある彫刻の頭の方へと顔を向けて、歌った。言葉と音色は共に歩み、分かちがたく結びついた。まるでふたつがひとつのものであるかのように、あるいはそれぞれの言葉がある音色においてのみ発しうるかのごとくに。そしてすぐれた分析による着想によっての場合を除いて、ふたつは区別されえないのだ。僕はそのように歌った。しかし言葉は単に、ある在りさまの鈍い現れでしかなく、その非常な追想の高まりそれ自体がその実現を妨げてしまった。そして僕が思うに、実際に必要とされた言葉は、追想の遥か上にあったし、またその状態はここで僕が喚び起こした記憶さえ超えていたのだ。


大理石の女よ、そなたは虚しく眠りつづける

まさしく夢の死そのものの中を!!

そなたは夢想に満ちた以外のすべてを吹き払って微睡み続けー

記憶と希望で黄金色に包まれた霧の中をくぐり抜けて僕の声を聴くだろう

そして陰のような微笑みで、始源なる死に立ち向かえと僕を励ますのか?


そなたの姿をあらゆる彫刻家が追い求めた

そなたは彼らの夢想を取り巻く彼ら自身

朽ちることのない姿、そなたの放った大理石の衣装としてのみ具現化された

だがそなた自身は、緘黙の中で

永遠にたゆたい続ける

彼らはそなたを見つけられなかった

数知れぬ彫刻家たちが求めたが――

僕が、そなたを見い出したのだ

僕のために、目覚めよ


僕は歌いながら、僕の前にぼんやりと現れているその容貌を食い入るように見つめた。僕はふっと思いついたが、内心それは単なる思いつきではなく、石膏のぼやけたヴェールを透し、物憂い溜め息のような彼女の頭の動きを僕は見たのだ、と信じていた。僕はより一層の情熱で見つめ、それは思いちがいだ、と結論した。にもかかわらず僕は、また唄わずにはいられなかった。


安息は今や美しさに満たされ、

そして思うにその安息がそなたを諦めさせたのだ

前へと踏み出せ、また別の義務のため

身ぶりは女王たる彼女を


さもなくば、もしそなたが微睡みの孤独より醒めるのに更なる年月が必要だと言うのであれば…

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