第40話 石の女神

僕はその仕事に必要な注意深さがゆるす限りの速度で作業を続け、そしてすべての苔を取り除いた時、膝から立ち上がって数歩後ずさると、僕の総力を傾けた成果が眼前に、たっぷりした明白な視野で現れ出た。ただ、同時に洞穴の中という場所に届く明度の限界と、その物質自体の備える性質からくる相当な不鮮明さを伴ってはいたが、それは純粋な大理石の塊が取り囲んでいる明らかに大理石の人の姿、安息の内に仰臥する女性だった!! 彼女は顔を僕の方に向け、頬の下に腕を置いて横臥していた。しかし髪は彼女の顔にいくぶん垂れ下がっており、そのため容貌の全体の印象を見ることはできなかった。だが僕が見、僕の前に現れたその姿は完璧なまで美しく、僕の魂の中で、僕という自我の誕生と共に産まれいでた容貌に、いままで僕が自然や芸術の中で見てきたどの顔よりも近かった。髪に隠れた以外の姿の実際の輪郭は非常に曖昧だったので、一部不透明な石膏よりも更に、実体の占める割合を見て取るには不明瞭だった。なので僕は薄手のローブがその不明瞭さを助長しているのではないかと思った。呪いや魔法による変身、あるいは今僕の前にあるよう石の中に閉じ込められることについての、数知れぬ物語が僕の心の中を通り抜けた。僕は半分は大理石で半分は人間の魔法にかけられた街の王子、ニオベのアリエルを思い浮かべた。あるいは森で眠る美女について、血を流す樹木について、その他多くの物語を。先夜にブナ樹の女性と行った冒険さえも、狂おしい希望を掻き立てるのに寄与したのだった。何らかの手段によって生命がこの樹の姿に与えられるのならまた、この石膏の墓石を砕けば、彼女によって僕の眼差しが、その存在と美を賛美する栄光を浴することもありうるのではないかと。「だって」と僕は論じた、「この洞穴だけが大理石の女神の家なんだと言いえる人がいるとすれば、その精髄たる大理石、大理石の魂そのものがそこに在るこの石は、いかなる形態にも形造られるのではないか? そうしてもし彼女が目覚めるのなら!! でもどうやって彼女を起こすのか? 口づけは眠りの森の美女を目覚めさせた。が、口づけは覆い隠す石膏を通り抜けて彼女には届かない」けれど僕を膝を折り、青褪めた墓石に口づけしてみた。しかし彼女は眠りつづけた。僕は自分にオルフェウスを、彼に続く石たちの物語を思い浮かべた。木々が彼の音楽に付いていったことは、今なにも驚きではないように思えた。なら唄はこの姿を目覚めさせないか? 所作の輝かしさがひととき、安息の愛らしさに取って代われないだろうか? 妙なる響きは、口づけの入れぬ場所へも届きうるのではないか?

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