第39話 ピグマリオン

しばらく黙考した後、これは彫刻家が彼の彫像の胎動を今か今かと待望せる、あのピグマリオンではないか!と僕は結論した。その彫刻家は彼がその目を向ける彫像より、ずっと硬くこわばった様子で座っている。その彫像は今にも台座から足を踏み出し、彫刻家を抱擁しそうに見える、そして彼は期待というより、確信してそれを待っているのだ!!

「すばらしい物語だ」と僕はひとりごちた。「今、この茂みが切り払われた洞穴の入口から光が差し込み、人目を避けた孤独なる彫刻家の空間として、彼の選んだ大理石の塊がそこに据えられる。その石は、既に彫刻家の脳にある目に見えぬアトリエの中で形を成している想念から、目に映る『躰』として受肉されるのだ……!! それに僕が思いちがいしてるのでないなら……」僕が言ったまさにその時、天蓋の裂け目から突然射し込んだ光が届いて、岩の、苔に覆われていない狭い部分を照らし出したのだ。「この石は紛れもなく大理石だ! 充分に白く繊細で、どんな塑形にも耐えうるだろう。たとえ彫刻家の手によって理想の美女となるべく運命づけられているのだとしても」

僕は愛用のナイフを手に取り、僕が横たわっていた石塊の一部から苔を取り除いた。その時、驚いたことに、僕はその石塊が普通の大理石というよりも彫刻材の石膏であり、ナイフの刃に対する感触も柔らかなことに気づいた。確かに、これは石膏だ。説明のつかない、けれども特異というわけでもない衝動に衝き動かされて、僕は石の表面から苔を削ぎ落とし続けた。するとすぐに石塊は磨かれ、少なくともすっかり滑らかになった。僕は仕事を継続した。そして対になった正方形の足のあたりの場所をすっきりさせると、僕はその仕上がりを見た。その成果は、それまで以上の注意と関心をもってその仕事をやり通せと僕を駆り立てた。なぜなら太陽の光は今や僕が磨いた箇所に届いており、その輝きに照らされ、僕のナイフが傷つけてしまった石の表面を除いて、石膏が本来持っている微かな透明度が現れていたのだ!! そして僕は石膏の透明度に明らかな限界があって、さらにその境界、より稠密で光の透らない本体が大理石であるのを見て取った。僕は注意深くこれ以上引っかき傷を付けないようにした。まず最初に、朧な予感は驚くべき可能性への期待となり、次いでさらに僕が作業を進めるうちに、ある啓示が、もうひとつ別の魅惑的な確信を生み出した。つまり石膏の堅い外殻の下にはぼんやりとしているが目に見える大理石の躰が横たわっているに違いない、という。だがそれが男性なのか女性なのかは、僕にはまだわからなかった。

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