第38話 秘密の洞穴

正午を過ぎてすぐ、僕は禿げた岩の丘に辿り着いた。あまり大きくはないが非常に険しく、木々はまったくない……そこには下生えさえほとんど生えておらず、すべてが太陽の熱い陽射しにさらされていた。この丘を越せば、進む道は平坦なように思えたので、僕はただちに登り始めた。てっぺんに着いた時は暑さで疲れきっており、僕は周囲を見回して、見渡せる限りすべて、樹海がずっと続いているのがわかった。僕は自分が今まさに下ろうとしている方角の林を眺めて、反対側と比べて丘の麓までが遠く、またとりわけ思いがけず引き伸ばされた陽射しから日陰への退避に、僕は未練たらたらだった。なぜならこちら側の丘は僕が登ってきた反対側よりもさらに険しいように見えたからだ。だから砕けた岩と小さな流れに沿って消えてゆくその自然の小道を僕が目にした時、僕はその道がもっと楽に、僕を丘の麓へと導いてくれるのではないかと期待した。そして試してみると、その降り道は全然苦もなくゆけるとわかったのだ。だがそれにもかかわらず、ふもとに辿り着いた時、僕は疲れ切り、また暑さに消耗しきっていた。しかし丁度その道が終わる所から繁茂した灌木や植物に覆われた巨きな岩を登ると、それらの幾つかはまさに満開であり、見事なまでに咲き誇っていたが、それら花々は岩に開いた入口をほとんど隠しており、入口はさらに先への道へと続いているように見えた。僕はそこに日陰があるのではないかと、渇望しながら足を踏み入れた。嬉しいことに僕は岩の玄室を見つけたが、そこはあらゆる角度から豊潤な苔に覆われており、さらに出っ張りや突起のすべてになんとも美しいシダが繁っていた。多種多様なシダたちの群生するさま、見事なまでの調和とそれが生む陰は、僕にそれら全てがなにかひとつの目的のために統一されているとしか思えない、詩のような作用を僕に喚び起こした!! 四隅のひとつにある苔むした凹みを澄みきった小さな泉が満たしていた。僕はそれを飲み、まるで命の精髄を知ったかのような想いを味わった。それから内側の角に沿ってソファーのように盛られた苔むす土手に、身体を投げ出した。ここで僕は暫くの間、心地良い夢想の内に横たわった。その間、あらゆる素晴らしい形象が、色とりどりに、さまざまな音色を響かせながら僕の脳という劇場の中を、意のまま、勝手気ままに行き交っていた。僕は自身の裡にそのような、今まさにこの形象と霊的な感覚によって呼び醒まされた全き幸せがあるとは夢にも想わなかった。ただそれらは、未だあまりに僕や他の人々の精神に共通するような何か具体的なモノへと転化するには、未だあまりに漠然と遠い彼方にあった。思うに、僕はおそらく一時間ほど横たわっていた。それはあまりに長すぎたかもしれないが、僕の精神におけるその調和のとれたばか騒ぎがいくぶん落ち着いてきた時に、僕は自分の目が僕とは反対側の隅にある岩の、時の風化を経た奇妙な浮き彫りに留まったことに気づいた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る