第31話 逃走

別の雲が月を隠し、恐怖の対象が視えていることによる直接的な影響である麻痺から僕を救った。一方ではそのことは僕の内にある怖れる力に、さらに想像するという推進力を加えたのだ。つまりは、知るということは知らなかった以前より、不安のもとをよりいっそう悪化させた上、僕は依然として先ほどと同じように自分の身を何から守ればよいのか、どのような用心をすべきか、などについてまったく無知なままだった。……奴は今この瞬間にも、僕を暗闇の中から狙っているかもしれないのだ!! 僕は跳ね起きて、どこへ往くのかわからないまま、ただ、かの幽霊から逃れたいとだけを思って疾走した。僕はもはや道のことなど考えず、恐怖に駆られて一目散に逃走する中、何度も間一髪で木に衝突するのを回避した。

大きな雨粒がばらばらと音を立てて樹葉を叩き始めた。雷が鳴り始め、次いで遠くで轟いた。僕は疾走った。雨はいっそう激しく降った。ついに分厚い樹葉でさえ雨粒を抑えきれなくなり、そして、第二の大空のように、緑の天空は彼らのほとばしる激流を地上に注いだ。僕はたちまち全身ずぶ濡れになった。僕は木々の間を走り抜ける増水した小さな流れにたどり着いた。僕はこの流れを越えさえすれば、追跡者から逃れて安全な場所に着くのではないかと微かな希望を抱いていた。しかし僕はすぐ、その願望はそれが曖昧であるのと同じにまちがってもいると気づいた。僕はその流れを走り抜け、坂を駆け上り、大きな木々ばかりが立ち並ぶより開けた場所にたどり着いた。木々の間を抜けてまっしぐらに走り、できるだけ東だとおぼしき方向を保とうとしたが、反対の方角へ移動していないのかさえ、まったくさだかでなかった。僕の心はちょうど極限の恐怖から少し持ち直しつつあった。その時、突然、一筋の稲光、というよりそれに続く閃光のがさみだれが背後に奔り、僕の目の前にある地面に、ただ前に見たものよりずっと微かにではあるが、光の源の広がりからあの同じ恐ろしい手の影を投げかけていた!!

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