第30話 幽鬼

僕は最も奇怪な姿を見た!! そいつは曖昧な影のようで、中央部はほとんど透明で、端に近づくにつれて次第に濃くなってゆき、最後に先端までゆけば、手から落ちるように、僕が今まさに月を見ている場所にある悍ましい指たちを通って、その影を地に投げかけていた。手は今まさに獲物を撃とうとする獣の足のような姿勢で、振り上げられていた。しかしその顔は波打ち、光の反射によってでなく、その顔自体が持つ、ちからを反響させるような様態による変化、外からではなく内に蔵するものからの変質により、はっきり脈打つように鼓動していた!! その様は恐ろしく、僕にはそれをどのように描写したらよいのかわからない。それはまったく未知の感覚を惹き起こした。ちょうど人が凄まじく不快な臭い、酷い痛み、ぞっとする音響をことばに訳せないように、僕は未知な形態をとっている、このおぞましい醜悪さを表現できないのだ。僕にできるのは、そのものではないがそれに似ていると思われる何か、あるいは少なくともそれによって暗示される何かを記述しようと努めるくらいしかない。その姿は僕に、吸血鬼についてかつて聞いたことを思い出させた。なぜならその顔は僕が考えられる他のなによりも死体のそれに似ていた。とりわけそのような顔の動きの中にあるところを思い浮かべた時には。ただその動きのもととして、生命を暗示するようないかなるものもなかった。その容貌はある点以外、内部にほとんど曲線のないその口元を除けば、むしろ見目良いと言ってさしつかえないものだった。ふたつの唇は同じくらいの分厚さだったが、少し傲慢そうには見えたにしろ、その厚みはまったく異常なものではない。それらはしっかり開かれていたが、大きく開いてはいない。勿論僕はこうした特徴にその時気づいたのではなかった。僕はあまりにそいつを怖れていたから、僕がそれらの特徴を認めたのは後のことだった。そしてその姿が僕の内なる視界に生々しく蘇ったとき、そのあまりの鮮明さに僕は映像の正確さを疑おうという気にはなれなかった。しかし容貌の中で最も恐ろしいのは目だった。それらは生きていた、だが「生命」によってではなかった!!

その両目は果てしない貪欲によってギラギラ光っていた。それは貪り食う者自身を喰らい尽くす暴食の貪婪であり、顔全体の幽鬼じみた現れの内に棲み、駆り立てている力に思えた。僕は二、三分の間、完全に怯えきった獣のように横たわっていた。

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