第28話 忍びよる影

その不快感は消えることなく、ますます深まってゆき、ついに僕の、至るところ愉しい妖精たちの存在が予感させてくれたさまざまな歓びは次第に消えた。そして、なにかはっきりとした具体的な対象と結びつけて考えることができない不安と怖れが、僕を満たした。とうとう恐怖と共に、ある考えが僕の心をよぎった。「トネリコが僕を探しているんじゃないだろうか? あるいは奴が夜さまよい歩いている内に、その通り道がだんだん僕の方に寄ってきているのではないか?」しかし僕はトネリコが僕とはまったく別の方角へ出発したことを思い起こすことで、自分を安心させた。奴がその道を取り続けるなら、それは奴を僕とは遠く離たところに連れて行くはずだ。とりわけこの二、三時間、僕は念を入れて東の方へと移動し続けていたのだから。そういう訳で、僕は意志を奮い起こして這い寄る恐怖に抗って、道を進み続けた。その為に僕はできる限り、自分の心の中を他のことを考えて埋めようとしてみた。僕はそれにかなりの程度成功したが、もしもほんの僅かな間でもその努力をやめようものなら、僕がたちまち恐怖に圧倒されてしまうだろうともわかっていた。だが僕はまだ一時間かそれ以上の間、そのまま歩き続けることができた。僕がなにを怖れていたのか、僕には話せない。実際、僕は敵の性質について限りなく曖昧な中の不安に置かれ、攻撃の目的や方法もわからなかった。なぜならどうやっても、僕が小屋の女御どのにしたどの問いかけからも、明確な答えを描き出すことはできなかったのだから。どのように自分の身を守ればいいのか、いや、確実に敵がいるのかをどんな徴候によって認識できるのかさえ僕にはわからなかった。曖昧な、けれども強力な恐怖だけが、未だに僕が直面する危機のすべての徴候だったのだから。僕の苦痛をさらに増したことに、西にかかる雲たちがほとんど空のてっぺんまで昇り、彼らと月は互いに向けてゆっくりと移動しつつあった。事実、彼らの前衛のいくらかはすでに月と出会い、彼女は徐々に深まりつつある薄い蒸気の膜を通り抜け始めていた。

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