第11話 邪なトネリコ

ここで彼女はいつ切れかのパンとミルクを置き、それらが客人をもてなすにはあまりに素朴でつましいことに、親しみの込もった詫びを入れた。しかし僕は(もちろん)それにケチをつけて当てこする気などまったくなかった。僕は、彼女とその娘両人が言った奇妙なことばについて説明をもとめるのなら今だ、と思い、

「あなたはどのような意味をもって、『とねりこ』のことを話されたのですか?」

……彼女は立ち上がって小窓の外を見やり、僕の目もそれを追った。しかしその窓は、僕の座っている場所からなにか外のものを見るにはあまりに小さ過ぎたので、僕は立って、彼女の肩越しにのぞき込んだ。僕が空き地をまたいで見たちょうどその時、こんもり繁った森の端に立つ、まわりを取り巻く真緑色をした他の木々の間できわだって青みがかった葉を示す、一本の大きなとねりこが見えた。と、彼女は不安とおそれの表情で僕を窓から押し戻すと、大きい古書をそこに置いて、光をほとんど遮ってしまった。

「普段は」彼女は平静を取り戻しながら言う。「昼間に危険はないのさ。というのも日中『彼』はねむっているものだから。しかし今、森でなにか『ふつうでないこと』が起こっている! 今夜、妖精たちの間でなにかおごそかな儀式のようなものがあるにちがいないよ。森じゅうの木々がそわそわ騒いでいる。まだ目覚めることはできないけど、その眠りの中で見、そして聴いているのさ!」

「でもおそれるような、どんな危険が『彼』にあるって言うんです?」

その問いに答える代わりに、彼女はまた窓に行って外を見、妖精たちが嵐にじゃまされなければよいが、嵐が森の西側で吹き荒れているから、と言った。

「外が暗くなればすぐに、とねりこは目覚めるだろうよ」彼女はそう付け加えた。

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