第10話 Fairy Blood

「よろこんで」彼女は同じ調子のひくい声で答えて、「けど家の中に入るまで、それ以上しゃべってはいけない、……とねりこの木が、わたしたちを見張っている」

こう言って、彼女は立ち上がり、小屋の中へと僕を案内してくれた。今、あらためて見る小屋は、稠密に詰められた小さい木々の枝から造られて、内部にまだ樹皮さえまだ取り除かれていない、粗削りの椅子とテーブルがいくつか置かれていた。彼女は扉を閉ざすとすぐ椅子を僕に勧めて、「あんた、妖精族の血をひいているね」と、僕をつよいまなざしで見ながら言った。

「どうしてそんなことがあなたにわかるんです⁉」

「もしそうでないんだったら、あんたはこの森をこんなとおくにまで来られなかっただろうよ。それにあたしは今あんたの顔立ちの中になにか痕跡のようなものを探そうとしてるんだけど、それがあるのが見えている、と思うのさ」

「なにが見えるんです⁉」

「おや、気にしないでおくれ、あたしがまちがっているかもしれないしね」

「でも、それならあなたはここにどうやって来て、暮らしているのですか?」

「そりゃ、あたしも妖精族の血をひいているからさ」

今度は僕が、じっと彼女を凝視する番だった。そして彼女の洗練されぬ素朴な姿、とりわけ眉のつくりの粗い重ったるさにもかかわらず、なにか尋常ならざるものー優美さとは呼びがたいがーを、僕は感じるられたように思った。また優美とは言えないにせよ、それは彼女の田舎風な容姿とふしぎな対照をなしていた。僕は手仕事や日焼けで褐色であるにもかかわらず、彼女の手のつくりが繊細であることにも気づいた。

「あたしは病気になるだろうさ」と彼女はつづけた。「もしも妖精圏の言うならば『さかい』に住まないで、ときどきにでもそこの食べものを口にしなければね。そんなわけであんたの眼をとおして、あんたがあたしと同じ『必要』から全くの自由、というわけじゃないのがあたしにわかるのさ。けれどあんたは教育と精神のはたらきによって、それをあたしほどは感じないみたいだね。あんたは妖精族の『種』からはもっとずっと、離れてしまったのかもしれない」

僕はあの妖精の女王が、僕の母系の『母たち』について言ったことを思い出した。

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