第9話 妖精国の小屋

しかし取り巻く周りすべてが全く眠っているようだったが、どうしてかそれらは眠りの中でさえ、ある予感の空気を身に纏っていた。木々はすべて意識された神秘の表情を浮かべ、さながらこうつぶやいているようだった「オレたちはやれる、やろうって思えばやれるんだぜ」と。彼らはいわくありげな顔つきをそのまわりに漂わせていた。その時、僕は夜は妖精たちににとっての昼、月は妖精たちの太陽であることを思い出した。だから僕はこう考えた---すべてが今は眠り、夢みている、(だが)夜が来れば、それはちがってくるだろう。また同時に、僕はいくぶん不安を覚えた。人間であり昼の子である僕は、どのように妖精たちやその他夜の子たちの中でやっていけばよいのだろう。彼らは死すべき者たちが夢見るときに起き、日常の日々をそのおどろくべき時間に見出すのだ! その流れは死んだように動かない男、女、子供たち--散り散りに横たわり、彼らを流れさらいまた打ち倒し、捕まえ溺れさせて無感覚にする激しい夜の波の重みの下でばらばらにされた--の上を音もなく流れる……やがて引き潮が訪れて波が沈み去り、闇の大洋へと戻るまで。

しかし僕は勇気を奮い起こし、先に進んだ。だがまもなく、今度はまた別の理由から不安におそわれた。僕はその日なにも食べておらず、空腹をおぼえてから一時間ほどが経っていた。なので僕は、もしこの奇妙な場所で人の必要を満たす栄養をなにも見つけられなかったら、とだんだん心配になってきた。しかし僕は希望を抱いてもう一度自分をなだめ、進んで行った。

昼前に、僕はほそく青い煙が、前方に広がる大樹海の幹の間をのぼってゆくのを見たように思った。まもなく僕は開けた場所に出たが、そこには小さな田舎家が建っていた。家の四隅が四つの大樹から出る幹で建てられ、屋根を覆うように大樹の枝枝が出会い、絡み合い、その頭上では巨大な雲の塊となった葉々が、天上へと浮かび上がっていった。僕はこの(妖精が棲家とするような地帯の)近辺で、人の住まいを見つけたことをあやしんだ。しかしそれはまったく人の気配がしなかったけれども、僕になにがしかの食べものが見つかるのではという期待をかきたてるには十分なものだった。扉は見当たらなかったが、僕は側面へとぐるりと廻って、そこで幅広の開いた入口を見つけた。ひとりの婦人がそのわきに座りこみ、夕食のための野菜を用意していた。その光景は家庭的でこころ安らぐものだった。僕が近づくと、彼女は視線を上げ僕を見る。まったくおどろいた様子もなくまた頭を下ろして仕事にもどると、ひくい声で言った。

「あんた、わたしの娘を見なかったかい?」「見たと思いますよ」と僕は答えた。「ところでなにか食べるものをいただけませんか? とてもお腹がすいているのです」

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