第5話 啓示
「どうしてお前にそんなことがわかるんだい?」彼女はぴしゃりと言った。「あたしに言わせりゃ、お前さん方は父方のご先祖についてはずいぶん知っているのに、もう一方の母方のご先祖についてはちっとも知りやしない。まあ、本題に入ろうかい。お前の妹は昨夜、おとぎ話をお前に読んでいたね?」
「そうだよ」
「読み終えたとき、その本を閉じながら彼女は言ったね、『おとぎの国ってあるの、兄さん?』」お前はため息をついて答えた、『あると思うよ、もしも人がそこへと至る道を見つけだせるならね』」
「僕はそう言ったさ、でもそれは君がたぶん考えてるのとはぜんぜんちがう意味で言ったんだけど」
「あたしがどう考えるかなんて、お前が一切気にすることじゃないよ。お前は明日、おとぎの国への道を見つけるだろうさ。さあ、あたしの瞳の中を見な」
駆り立てられるように僕はそうした。彼女の瞳は僕を未だ知らぬあこがれで満たした。僕は幼児の時、どんな風に母が死んだのかを想い出した。僕は瞳の中が僕の周りで海のように広がるまで、もっと深く、深く見入り、その水の中に沈み込んだ。
僕は自分が薄暗いカーテンが引かれた窓辺に立っているのに気づくまで、その他のすべてを忘れていた。僕はそこに立って、月光の下、きらめく小さな満天の星を見つめていた。星々の下には海が、月明かりの死のように年経た灰白色のしずけさに横たわる。ゆるやかに湾へと入り、さらに岬や島々の周りをめぐり、遠く、遠くへ。僕にはその果てがどこなのかわからない。なんと! それは海ではなく、月の周りをほの暗くとりまく霧だった。「でも確かに、こんな風な海がどこかにはあるはずなんだ」そう呟く僕に、低くやさしい声が答えた。「妖精の国にならね、アドノス」
僕は振り返ったが、誰の姿も見えなかった。僕は書庫の扉を閉じると、自室に向かい、眠りについた。
こうしたすべてを、僕は半ば閉じた目で横になりながら思い出した。まもなく今日妖精の国に至る道が見つかるか、あの女性の約束が真実なのかどうか僕にわかるだろう。
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