第2話 父の書庫
部屋のさらに奥まった部分すべてには神秘の屍衣が被され、その最もふかい襞は黒いオーク材の戸棚がある周囲に凝集した。僕は今そこに、畏れと好奇心のふしぎな絡まり合いと共に近づいていった。たぶん僕は地理学者のように、人間世界の埋められた地層―情熱によって焦げ付かされ、涙によって石と化した化石群―に光を当てようとしていたのだ。たぶん僕は、その個人的な歴史が僕にはまったく知られることのなかった父―彼がどのようにその物語の糸を紡ぎ、どのように彼の世界を見出し、そしてどのようにその世界が彼を遺して去ったのか―を知ろうとしていたのだ。おそらく僕は、土地とお金の単なる記録―それらがどのように得られ、保たれ、見も知らぬ祖先たちの手、波乱の時代を経て、彼ら先祖がまったくこれっぽっちも知ることのなかった僕の元へと辿り着いたのか―を見るだけだろうが。とりとめもない推論にけりをつけるため、また、まるで這い寄る死者たちのように僕を濃密に取り囲む畏れを払い除けようと、僕は書庫の奥に近づいた。そして僕は鍵束の中からその戸棚の上部に合う鍵を見つけたので、いくぶん苦労しながらそれを開け、高い背もたれのある重い椅子を近くに引き寄せ、あらわれた数多くの小戸棚、引き出し、隠し棚の前に腰を据えた。しかしこの長い年月隠された世界の秘密がまさにそこにあるとでも言うように、中央にある小さな戸棚が格別に僕の注意を惹いた。それを開く鍵を、僕は鍵束から見つけ出した。
錆びた蝶番のひとつが弾け壊れる音と共に扉が開くと、そこに沢山の隠し棚があらわれた。しかしながらそれらの棚は、小さな戸棚全体を取り囲む空間の「深さ」と比較すると、棚たちの外側が机の「背」まで届くには少々浅すぎるように思われた。僕はそれら戸棚の背後にはある程度のすき間があって、そこに辿り着くことができるにちがいない、と考えた。そして実際、戸棚群が棚ごとに分かれているものの、戸棚全体をひとまとまりとして引き出すことができることに気づいた。それら戸棚の背後に僕は、小さな木の棒を水平に密接に横たえて積み上げた、柔軟な格子戸のようなものを見つけた。ずいぶん探し、その格子を動かそうといろんなやり方を試した後、僕はついに格子戸の片側にほんの僅か突き出た鉄製のボタンを発見した。僕は近くに転がっていた古道具の先端を使って、とうとうそれが屈して内側に動くまで、繰り返し強く押し込んだ。
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