翻訳 ファンタステス 原作 George Macdonald

@giraldus

第1話 目覚めの曙光

とある精霊が……

しずかに波打つ水面、なずむ小川の流れ、暮れゆく夕闇の中を今、影を闇へと深めながら姿をあらわし、彼とことばを交わす。まるで彼と精霊、二人で世界のすべてであるように。


シェリーの「アラストール(復讐神)」




僕はその朝、意識の回帰が引き連れてくるいつもの心のもつれと共にめざめた。僕は横たわったまま部屋にある東側の窓から、桜色の微かな帯が、ちょうど地平線のひくい膨らみの上にのぼった雲を割って、太陽のおとずれを告げるのを見た。ぐっすりと、夢も見ない深い眠りに溶けていた僕の思考は、再び透明なクリスタルのかたちをとり始め、昨夜の奇妙な出来事が、あらためて僕のまどろむ意識に送り込まれる。先の日は僕の、21歳の誕生日だった。僕に法的な諸権利を授与する諸々のセレモニーの中で、僕の父が私的な文書を保管していた古い書庫の鍵も、僕にゆずられた。僕はひとりになるとすぐ、(召使いに命じて)書庫のある小部屋に明かりをつけさせた。その明かりは、父の死後の長い年月だれも立ち入らなかったそこに、初めて灯された光だった。だが暗闇がたやすくは立ち退くまいと、ぶら下がったコウモリのように壁に真っ黒く染みつき、松明の光はどんより黒い『コウモリども』をわずかに照らし出すのみで、深くえぐれた蛇腹のくぼみに、もっと闇ふかい影を投げかけるだけに見えた。

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