海辺の美少女

@muuta1627

第1話

「……ふぅ」


 夕陽に照らされる秋の海。

 田村悠はたそがれていた。


 部下に裏切られ借金を背負い

 その事実に打ちのめされ、人気のない海に来ていたのだった。


「何してるの?」

 後ろからかかった声にゆっくりと振り向くと、少女がいた。

 高校生くらいの、髪を長く伸ばした女の子だ。


「ああ、いや。ちょっとね」

 無気力に応える悠に、少女は落ち着いた声音で。

「海を見てたの?」

「……ああ」

「なんか訳ありだね?」

 イタズラっぽく微笑まれて、悠は思わず苦笑してしまった。

「会社でちょっとね。人を信じられなくなっちゃったんだ」


 何で見知らずの少女にこんなこと話してるのかわからなかったが、口は止まらない。

 そのまま自分の状況を全て話してしまった。

 少女は少し逡巡してから、口を開いた。

「世の中そんな人ばっかじゃないと思うよ。私みたいなアホもいるよ」

 悠は少し目を見開いた後、

「そうだね……君みたいな人ばっかだったら信じられるのにね」

 自分の気持ちが驚くほどスルスルと出てくる。

「あ、今私のこと、ばかって言ったなー」

「そう言う意味じゃないよ。言葉の綾だよ」

弁明する悠に、少女は微笑みを返した。

「わかってるよ。まあ、元気だしなよ。ここに来ればまた話を聞いてあげる」

「そうか、ありがとう」

 立ち上がった少女に、蓮は笑いかける。

 もう会うことはないだろう。


 去っていく少女をみながら、名前を聞いていなかったなと少し後悔するのだった。

 


 翌日の朝、曇り空の下、蓮は再び海辺に足を運んだ。

「気持ちいいかも」

 ____こころがかるくなったからだろうか。

「ん?」

 座り込んでたそがれる蓮の方へ誰かやってくる。

「こんにちは〜」

「……ああ、こんにちは……」

 やってきたのは昨日とは別人の少女だった。年の頃は12歳くらい。黄金色の髪が煌めいている。

「気持ちいいっすねー」

「そうだね」

「こんな昼間っからどうしたんすか?」

 少女はイタズラっぽく口を緩ませる。

「無職っすか?」

 蓮は一瞬驚きの表情を浮かべた後、

「ああ、まあそんなところだよ」

 と笑った。

「いいっすねー」

「無職がか?」

「違いますよ。そんな嫌味みたいなこと言わないっす。海のことっすよ。

 ……これが言葉のあやってやつですね。日本語ってむずかしいっす」


その言葉を聞いて蓮は思わず笑ってしまった。その様子を見て少女は首を傾げる。

「どうしたんすか?」

「いや。昨日と同じだなと思ってさ」

「……そっすか?」


 2人はそのあと1時間ほど談笑した。悠は昨日と同じように自分の過去を少女に話した。

 彼女は、昨日の少女と同じように、じっと悠の話を聴いていた。


「まあ生きてたら色々あるっすよ。自分にはよくわかんないっすけど」

 少女は立ち上がりながら言う。

「ああ、そうだな」

 二度も不思議な少女に遭遇したみたいにね。と心の中で呟いた。

「まあ自分で良ければ話聞くっすよ。また会ったら愚痴ってくださいっす」

「そっか。ありがとう」

「どもっす。じゃ、また」

 駆けていく少女を、悠は笑顔で見送るのだった。

 


「ふいーきもちいい」

 さらに翌日。相変わらず天気は良くなかったが、砂浜にやってきた。

 

「……頑張るか」

そんな言葉が口をついていた。

「…………」

 ————-変わったな、俺。

 こんな前向きな言葉が出てくるとは。

「どうしたんですか?」

 1人感慨にふけっていると後ろから声がかかった。

 黒い髪の女性だ。

「ああ、いえそろそろ戻ろうと思いまして」

 あ、これでは何も伝わらないな。

そう思い何か言おうとすると、

「……そうですか」

 先に笑顔が返ってきた。

 その笑顔はあの金髪の少女のものに似ていて、

「ありがとな」

 悠の口から、ふと感謝の言葉が漏れ出した。

「?」

「あ、すみません。忘れてください」

 慌てる悠に、

「いえ、よかったです。元気になったようで」

 少女が今度はイタズラっぽい微笑みを返してきた。

 それは最初に出会った微笑みにそっくりで。

「……名前を教えてもらってもいいですか?」

悠は反射的にそう口にしていた。

少女は、はにかんでから、

「……当ててみてください」

「ええ……」

「適当でいいですよ」

悠は目の前の景色を見てからこう応えた。

「凪」

凪は一瞬目を見開いた後言った。

「……正解です。すごいですね」


「君は本当に優しいな」

 悠はイタズラっぽい微笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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