第35話 アカデミーの試練

 地下闘技場の客席で、ソワソワしながら辺りをうろついている者。逆に落ち着き払って静かにベンチに座って時が来るのを待っている者。落ち着きを通り越して、ベンチを何席か占領して横になって寝ている者。千差万別に時が経つのを待っている中で、マーディは静かに席に座って瞳を閉じ、精神を落ち着かせるように雑念を取り払っていた。



「集中しているな、マーディ。関心関心」

 カーリス・メティが客席と闘技場を分ける柵に体を預けて言った。声を掛けられてマーディは閉じていた瞳を開けると、返事を返す。



「自分でも、驚くほど集中できている気がするんだ。やけに落ち着いている。昨日の午前中までは、この世の終わりのように焦っていたのに」

 マーディの物言いに、笑うようにカーリスは言う。



「そんだけてめえは頑張ったって事だ。それに、今回受ける試験も何の因果か・・、いや止めとこう。他の試験者と公平に扱わないとな。余計なお喋りはこれで終いだ。ま、気張れよマーディ」

 一瞬手を上げると、カーリスはマーディの元を去っていく。その後ろ姿を見送ると、マーディは再び瞳を閉じてその時が来るのを待った。



「試験者は会場に降りてきてください」

 闘技場の中心に一人の男がいつの間にか立っており、客席で今か今かと待っていた試験者たちに向けて言った。その言葉に続々と試験者たちは試合場に降りていき、中心にいた男とは別の人間に支持を受けて、横一列に並んでいく。その中で、一番左側にマーディアス・グローも並んだ。



「漏れている者はいないようなので、これにて始めようと思います。私は戦術第二部隊隊長のメルフ・タイナーです。入学試験では試験官の監督を担います。よろしく。そして、私の両隣に立ってもらっている者達は、これから3つの試験を行う中で、2つの試験を担当する者たちです。一人の試験官の内、担当する試験者は2人なので、これから試験官が担当する人間を読み上げますのでよく聞いておいてください」

 試験監督であるメルフ・タイナーが言い終わると、4人いる試験官がそれぞれの担当する試験者を読み上げていく。そして、最後の番になった試験官であるカーリス・メティがマーディアス・グローの名を読み上げた。



 地下闘技場にそれぞれ試験者と試験官が配置されると、一つ目の試験である魔力測定検査が開始された。



「さあ、マーディ。始めやがれ」

 鉄の棒をマーディに渡すと、カーリスは言った。



「さっき言い淀んでいたのは、俺の担当になった事なんだな」

「ま、そういう事だ。それより、昨日マカイが覚醒した程度のお前の魔力で、どこまでできるか見せてもらおうか」

 カーリスは挑発するように言う。



「まあ見てろ」

 マーディは言うと鉄の棒を床に立たせ、目を一瞬閉じると深呼吸する。



「星図を思い出せ」

 マーディは呟くと魔法発動状態に移行する。そして、鉄の棒に魔力を注ぎ込む。すると、鉄の棒の天井に向けている先から光が漏れる。



「ほう・・、なかなかの大きさだ。平均的な魔力量よりはあるようだな」

 カーリスはマーディが持つ鉄の棒の先、魔力によって作られた白い光のフラッグを見て言った。



「よし、できたぞ」

 一安心するように笑みを零すと、マーディは風がない中で揺らめいている魔法のフラッグを見て一安心するように笑みを零した。



 試験者各々のフラッグが完成する中で、どよめく声が聞こえてカーリスとマーディはその方向へ顔を向ける。



「へえ、やるじゃねえか」

 色々なフラッグが完成する中で、一際大きなフラッグを創造させた2人の試験者が見えた。



「すごいな、あの2人」

「確かあいつら。金髪の優男な野郎はレカ・アーズ。もう一人の口元を服で隠してる陰気な奴、名前はラキリ・グリムだったな。マーディ、あいつらは強敵だな」

「そのようだ」

 カーリスの言葉に呼応するように、マーディは大きなフラッグを持つ二人に厳しい視線を送った。



 一つ目の試験である魔力測定検査が終わり、二つ目の試験、飛行球捕獲試験が始まった。



「では説明するぞマーディ。今から言う内容は複雑だからよく聞いとけよ?一度しか言わないからな」

「わかっている。早く言ってくれ」

 もったいぶるような口ぶりのカーリスに、少し苛立つようにマーディは言葉を返した。



「この球を捕まえろ。以上だ!」

 カーリスは言い終わると、手に持っていた白い球を空中に放り投げる。すると球は空中をランダムに飛行する。



「これを捕まえればいいんだな。シンプルでいい!」

 マーディは言うと自分の真上に来た球を掴もうとジャンプするが、球は速いスピードで駆け抜けてしまう。



「思った以上にスピードが出てるのか」

 マーディは上空に飛ぶ球をジャンプしたり、低空飛行の時の球に滑り込むようにして身を投げ出してキャッチしようとするが、その手を掴み取ろうとする時には球はすでにその場を通り過ぎていた。



「この試験ではアドバイスは許されているから、今から言うぞ?ちゃんと聞いとけよ。球の魔力を感じろ。魔力の先にある予兆の放出魔力があるだろ?それを狙え」

 カーリスの言葉に従い、マーディは飛び回っている球の魔力を感じ取る。そして、その飛び回る原動力の魔力によって、これからどう動くかの放出魔力を読み取るとマーディは予兆の場所に手を差し出す。



「キャッチだ!」

 マーディは見事に掴んだ白い球を頭上にかざす。



「やるじゃないか」

  腕を組んだカーリスが、満足そうに頷きながら言った。少し照れるようにかざした手を下げると、マーディは気になってフラッグで優秀な成績を残した2人に目を向けた。すると、すでに飛行球捕獲試験を終えているのか、客席で休んでいる光景を目にマーディは捉えた。その他の試験者を気にする様子を見かねてカーリスが隣に来て言った。



「次はお待ちかねの実戦だ。マーディ、お前と戦うのは優秀な二人の内、レカ・アーズとやってもらう。良かったなマーディ。強い奴と戦えるぞ」

 カーリスの言葉に何が良いのか問い詰めたかったが、マーディは思い直す。自分の実力を知る絶好の機会だ。思いっきりぶつかってやる。



 戦意を高めるマーディに、カーリスは葉っぱを掛ける必要はなかったなと一人頷くのだった。

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