第28話 秘匿されし儀式

「では・・始めましょう・・」

 バザ・ユガルタは言うと、武具転生を開始して枯れた苗を黒い渦から受け取った。



「神樹の苗を使うのか?っていうかこれ、生徒会長の悪知恵じゃないのか」

 アティアの言葉に、バザはこくんと頷く。



「よく・・わかったね・・。そうだよ・・、生徒会長に・・この任務に・・アトミラに出発する前・・教えてもらったの」

 バザの言葉にアティアは呆れる。



「あの野郎、この状況を想定していたのか。どちらにせよ、準備はしていたって事か。やっぱり嫌いだわ」



「で、俺はどうすればいい」

 アティアに軽く治療魔法を掛けてもらい、少し元気を取り戻したマーディアスはバザに言う。



「マーディ・・。あなたに・・虚実を・・・創造してもらう」

「虚実?マカイみたいなものか?」

 アティアは顎に指を絡めて言うと、バザは頷いて話を続ける。



「そう・・マカイとは・・自分の中にある・・魔法と言う虚実を・・現実にすること・・。今からやる儀式も・・やることは似ている。そしてこれは・・隠された儀式。誰にもできないから・・正確に・・言えば、忘れられた儀式」



「ふーん。じゃあちゃちゃっとやらないと、リーゴの魂が神域シンイキに行っちゃうんじゃないのか」

 アティアの指摘にバザは再び頷くと、適当な場所にバザは赴いて苗を乱暴に砂に植えた。



「そんな適当に植えていいのか」

 心配そうにマーディは言うと、心外だと不満を表すようにバザは強い口調で口を開いた。



「適当じゃない・・ちゃんと考えてる」

 バザは言い終わると、水筒をマーディに渡す。



「このアカデミーで汲んだ水を・・植えた苗にかけて」

 マーディはバザの言うとおりに水筒のキャップを開け、透明な水を苗に振りかけた。



「その水は、アカデミーの神樹の根に触れた水か。ご利益ありそうだ」

 少し嫌味が入ったような感じでアティアは呟く。



「さあ・・再誕の儀の・・準備は整った。さっき説明した通り・・イメージして・・神技を開放して・・」

 バザが言い終わると同時に、黄色の絨毯で倒れているディミルが説得を試みる。



「マーディ・・お願い」

「ディミル・・。確かにこの力は素晴らしいと思うし、実際に神の意志を感じる・・と思う。神技使いとして、英雄となる未来もあったかもしれない。でも、仲間を大事にする行為も、英雄的な行為じゃないかと俺は思うんだ。テラと言う神様も、俺の行為はわかってくれると思う」

「あなたに神の・・何が分かると言うの・・」

 ディミルの執念に、アティアが隣に寄り添って言った。



「ディミル、あんたにツッコみたいけど、怪我人だから止めとくわ。一つ言っておくぞ。これは神技使い、マーディアスの決断だ。これは誰でもない、彼自身が決断を下したんだ。その意思を、尊重するべきだとは思わんかね?」

「彼自身?・・怪しいものだわ。誰かの犠牲が救われるとしたら・・弱い人間はすぐに救うという行為に飛びつく。その行為の代償が・・愚かな事でもね。今まさに・・マーディの事よ。自分の意思と勘違いさせて・・代償を払わせる」

「確かに、ディミル。決断には自分だけの情報じゃない。色んな情報を汲み取って決断を下すんだ。最後の判断を彼が下した。ただそれだけだ」



 アティアの言葉に、ディミルはただ一言言い返した。

「・・バカみたい」



 マーディは一言ディミルに謝り一呼吸入れると、再誕の儀を始めた。



 まず、マーディは瞳を閉じた。そして、バザの言った通りリーゴの魂を思い浮かべ、その魂を絡み取り、先ほど苗に掛けた水に溶け込むような想像を頭に浮かべた。



 マーディは一度目を開く。そして、一瞬言葉が出そうになるのを我慢する。再誕の儀を開始すれば、言葉を終わるまで発してはいけないとバザに言われたためだ。



 植えた苗が、10メートルはある木へと成長していた。青々と葉が茂り、青空だった空が星々が輝く夜空へと変わっていた。



マーディはアティアやバザ、ディミルの様子を見てみるが、特に驚いた様子はなかった。木の方をよく見てみると、一筋の水が倒れたリーゴの方へ伸びている途中だった。



 マーディは瞳を閉じた。そして、自分の持つ力、神技を発動させた。その力をできるだけ木に注いでいるような、分かり易く言えば肥料をまくようなイメージを頭の中で想像した。そして、再度瞳を開けた。



 木はもう、巨木へと成長していた。アカデミーにあった木よりは小さいとしても、それでもこの闘技場の高さを優に超え、このアトミラの町を易々と見下ろせる高さへと成長していた。また、木の根元から伸びている一筋の水はリーゴの体に到達していた。



 そして、マーディはこんどこそ声が漏れそうになるのを何とか寸前でトドめた。体も何もない、ただ巨大な腕が、宇宙から、夜空から、こちらに向かって近づいてくるのだ。恐怖と絶望、そして、その奇跡と愛の物語が、その巨大な手でマーディを掴もうと手を伸ばしていた。



「マーディ、大丈夫か?」

 まず初めに、冷静な顔のアティアの顔が目に映った。そして、心配そうにこちらの様子を伺っているバザ。ディミルは静かに、諦めたようにただ目を閉じていた。そのすぐ傍に、気を失っているロミ。その隣で、目を開けて身を起こすリーゴがいた。



「リーゴ!」

 リーゴの元にマーディは駆け寄ると、驚いた顔でリーゴは言った。



「おいおいなんだよマーディ。まるで死んだ人間が生き返ったような面しやがってよ。おちおち寝てもいられないぜ」

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