第27話 マーディアスの決断

 闘技場の客席にアティア・ステイスとベレトラム、そしてバザ・ユガルタが立っていた。三人の周りには上空から着地してきたためか、黄色い花びらが舞い上がっていた。



「まさか生きてお会いできようとは・・。ヌゥスの力を退けるとは驚きです」

 ユカは無表情のまま言うと、防がれた刃をもう一度繰り出そうとマーディに向けて剣を振りかざした。



「もう貴様の負けだ、諦めろ」

 瞬時にマーディの所に移動したベレグラムは振りかざした剣の刃を銀の籠手で掴み、もう一方の手でユカを捕まえようとした。



「赤の世界、炎者」

 ユカは言うと自身の体全体から炎が吹き荒れ、その炎は試合場全体に広がる。その燃え盛る勢いにベレグラムは思わず手で兜を覆う。



「逃げたぞ、ベレグラム!」

 アティアは叫ぶと、ベレグラムは覆っていた手を下ろして辺りを見回す。

「私はユカ・ローニスを追いかける。アティア達は怪我人の手当てを頼む」

 ベレグラムは言うと軽く飛び跳ねて客席に着地すると、もう一度大きく跳ねて闘技場を離れて行った。



 アティアとバザは客席から試合場に降りてくると、一人片膝をつきながらも唯一意識を保っているマーディの元に行った。



「大丈夫か。ケガは?」

「俺はロミのおかげで大丈夫だ。そんな事より、3人を見てくれ」

 マーディの悲痛な表情にアティアは頷くと、3人それぞれをバザと共に診て回った。その様子をマーディは見守るが、特にリーゴを二人が診る時はマーディ自身の表情がより悲痛を深くした。



「ロミは気絶しているが、命に別状はない。ディミルは火傷が思ったよりひどいな。もしかしたら跡が残るかもしれん」

「そうか・・。リーゴは?」

 マーディの言葉に、アティアは首を振る。その行為が、マーディにとってはとても残酷な行為に見えた。

「リーゴは、既に亡くなっている。ほぼ即死だったみたいだ」



「リーゴ・・」

 マーディは立ち上がろうとしていた両足の膝を地面につけると泣き崩れた。



 マーディの瞳から零れ出た涙は、激闘で焼け焦げた黄色い花びらの上に落ちた。視界に息絶えたクレントンの倒れた姿が見えたが、憎しみが沸く前に自分の不甲斐なさに心が埋め尽くされた。神技使いと持て囃され、自分自身もその気になって力を振るい続けた。その結果がこれだ。なにが神の奇跡だ。なにが転生者だ。一人の仲間も守れやしない、ただの役立たずの人間だ。



 自分を攻め立て、焦げた黄色い絨毯に拳をぶつけた。自身を攻め立てるマーディに一人の女が話しかける。



「マーディ・・、まだ・・方法はある」

 バザ・ユガルタの言葉に、マーディはクシャクシャになった顔を上げて疑問を口にした。



「方法とはなんだ?」

「リーゴが・・生き返る方法だよ」

 バザの言葉に、アティアが反応する。



「生き返る方法だと?そんな神の御業が、お前にできるのか」

「私がやるんじゃない・・。マーディがやるの」

「俺ができる事なら、何でもする。だから教えてくれ!何をすればいい」

 マーディはすがる様にバザに言う。



「復活させるには・・それなりの代償が必要・・。マーディ・・あなたの持つ神技を・・、代償にしてもらえば・・リーゴは生き返る」



「神技を・・?わかった。代償に差し出そう。それでリーゴが生き返るのなら、喜んで差し出す」

「待て待て。もっとよく考えろ、マーディ。リーゴの事は残念だが、アカデミーに所属している限り、命の危険は彼自身も承知の上だったはずだ」

 マーディの言葉にアティアは異論を唱えるが、もっと強い反対をもう一人の人間が唱えた。



「何を愚かな事を言っているの・・。あなたの持つ神技は・・神の恩恵、テラの祝福その物なんだ。神技を捨てるという事は・・、神を捨てるのと同義だ。そんなことは到底許されない・・。絶対に止めて。あなたは13人目の英雄になりえる存在なんだよ。リーゴの死も、きっと乗り越えられる。私が支える。だから、神技を・・、神の祝福を・・」

 いつの間にか意識を取り戻していたディミルが倒れながらも、力なき声で、力強い意志で言葉を紡いだ。その瞳は薄目で今にも気を失いそうになるのを必死に意識をとどめ、マーディの意思を変えようと必死だった。



「だとよ、マーディ。まあ、最終的に決めるのはお前だ。私はぶっちゃけ相当もったいないとは思うがね。テラの信徒であるディミルの気持ちもわからんでもない。そして、リーゴは大切な仲間であると。マーディ・・、どうするんだ」

 アティアとディミルの視線に、マーディははっきりと答えた。その瞳にはもう、涙はなかった。



「決まっている。バザ、頼む」

 マーディは決断すると、ディミルに視線を向けて一言謝る。



「やめて・・マーディ。考え直して」

 懇願するようにディミルは言ったが、その言葉はもうマーディには届かなかった。

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