第25話 霧の世界
ロミ・クライセスとリーゴ・トミナはマカイを唱え、魔法準備段階に入った。マーディアス・グローは体から虹の光を迸らせた。だが、マーディ自身は戦いに納得がいっているわけではなかった。
「ユカさん、この戦いは馬鹿げている!」
マーディは叫ぶ。その行為にユカは魔法をもって答えた。
「白の世界、閉幕の檻」
黄色の花びらの世界から、白い霧の世界に塗り替えられる。そして、その霧は濁流となってマーディに襲った。
「くそッ!」
マーディは迫ってくる霧から素早く距離をとるが、すぐに追いつかれて霧に視界を奪われる。
「クレントン」
ユカが呼ぶと、客席にいたガーディアン達の中にいたクレントンが試合場に乱入してくる。そして、ロミとリーゴに対峙するように二人に近づいていく。
「やろうってのか!」
「私たち、超強いけど大丈夫?」
ロミとリーゴの二人は言うが、言葉に威勢が乗っていなかった。
「
クレントンが素早く剣を抜き、魔法エネルギーを剣に乗せてぶつけてくる。リーゴは鞭で薙ぎ払ってエネルギーを受け止め、完全に受け止めるための後押しを担うように、ロミがナイフをそのエネルギーに投げて弾けさした。
視界を奪われたマーディに近づきユカは剣の斬撃を食らわそうとするが、マーディは虹の片翼を纏い、視界を奪っている霧事ユカを翼を広げて吹っ飛ばした。
「その片翼の翼・・まさしく、神の奇跡」
ユカは空中に吹っ飛ばされ乱された体制を正常に戻すと、地面に帰った。
「だからこそ、奇跡を自分に取り戻す。白の世界、影絵の手」
再びユカは霧を発生させると、マーディの周りに漂わせた。
「なんだ・・、何かに掴まれて動けない!?」
マーディは動けずその場をジタバタするが、思うようにいかない。誰かに体中を鷲掴みにされているような感触を持ったが、周りには霧のような白い靄しかなかった。
「ユカさん!もう止めにしよう!こんな事をして、何かの復讐のつもりなのか!これで亡くなった家族が喜ぶとでも?それに、俺たちは僅かな時間しか過ごしてはいないが。だけど、戦わなくても済む方法はあるはずだ!」
「お涙頂戴に友情か。では・・愛に燃えましょう。白の世界、燃える灯台」
ユカは言うと、霧の中に眩い明りが生まれる。そして、その明りから幾つもの炎が生まれ、マーディへと襲い掛かる。
「神の力と共に燃え尽きなさい。その灰を拾い上げ、我ら黄のガーディアンの礎になりましょう」
炎は幾つもマーディに襲い掛かるが、体に触れる寸前で光りの壁が一瞬現れて搔き消され、その身に届くことは永遠になかった。
「この馬鹿野郎!」
マーディは叫ぶと霧の剣を持ち、ユカに勢いよく突っ込む。
「白の幻劇、閉幕」
ユカは呟くと、マーディの持っていた霧の剣の刃が霧と共に彼方へと消えていく。そして柄だけになった剣を真正面に、抱きしめるようにユカはマーディごと受け止めた。
「まさか・・あの夜に・・、この剣を託してくれたこと・・全て噓だったのか」
血を吐きながらマーディは言う。
「嘘ではないよ、マーディさん。すべて真実だからこそ、現実は喜劇なのだよ・・」
マーディの体に刺した剣をぐっと押し込めて、ユカは優しく語りかけた。そして、マーディはゆっくりと倒れ、その倒れた体に足をかけて刺していた剣をユカは抜いた。
「マーディ!!」
クレントンと戦っていたリーゴは、マーディが倒れているのを見ると思わず叫ぶ。
「いくら神技使いとはいえ、無敵ではない。神ではないのだ。虚を付けば、どうとでもなる」
ユカは満足するように言った。
「いくぞロミ!雷の鞭!」
「泥の箱、弾け玉!」
リーゴはユカの足元の地面に思いっきり鞭を振り下ろす。ユカは素早く後方に下がると、今までたっていた付近に雷が暴れ狂う。そして、試合場全体に泡をロミはばら撒くと、その泡が魔法エネルギーと共に弾ける。
「大丈夫!?マーディ!」
二人の立て続けの攻撃で時間を稼ぎ、ロミはその隙にマーディを抱き起す。
「少し・・油断した」
マーディは掠れ声で返事をする。
「生きてるならそれでいい!ロミ、回復できるか」
「何とかやってみる!」
リーゴの言葉にロミは答えると、マーディの赤く染まる傷口付近に手を近づけ、癒しの魔法を掛ける。
「なに・・この回復力・・」
マーディの持つ驚異的な治癒力にロミは思わず息を呑む。
「無駄な足搔きはおよしなさい」
ユカは言うとクレントンと共にマーディ達に近づく。
「戦斧、乱撃殺法!」
二つの斧が客席にいた聖女封印を施していたガーディアン達を八つ裂きにする。
「まさか!?聖女封印を解除したというのか。丸一日は短くてもかかる代物を・・」
ユカは驚く声を上げながら、マーディ達の前に立つディミル・シューバートを睨みつけた。
「あなた達はテラの教えに大いに外れている。その道を正すのも、聖女候補の役目よ!」
客席で暴れまわっていた二つの斧を両手で受け止めると、ディミルはユカを睨み返した。
「愚かな・・。その命、早く縮めることになるだけだ」
ユカは言うと、魔法を展開させる。
「白の世界、開幕」
「また霧の魔法?少しは工夫してもらいたいわね」
ディミルは身構えるが、霧が辺りに立ち込めるだけで何も起きなかった。
それは、聖なる祈り。乙女の如く、清らかなる力。
「聖なる呼び声。純粋たる祈り」
ユカの言葉に、ディミルは驚く。
「まさか!?聖女の力!?あなたも聖女候補だと言うの!?」
「地獄より這い上がりし獣。その番犬たる荒々しき三つの首で、全てを食い殺せ!出でよケルベロス」
ユカは叫ぶ。そして、霧が風圧と共に強引に晴れ、それは現れた。
狂暴で、獰猛で、荒々しい牙を持つ、3つの首を持った地獄の番犬が、ユカの傍で立っていた。
人間の2倍以上はある大きさの、その番犬は3つの口で吠えた。その声を聞きながら、マーディは失いそうになる意識を何とか保ちながら、ケルベロスと呼ばれる化け物の3つの内、真ん中の顔にある痣を見つめ続けていた。
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