第23話 闇の霧氷

 鳥の鳴き声が朝早くに響く中、アトミラのテラ教会で不貞腐れている女がいた。



 謁見の間で、12階段の座に座っている聖女カルアは時折欠伸をしながら、周りにガーディアンを従わせて不機嫌に溜め息を吐いていた。



「ユカはまだか?」

「はい、もう少しで到着するとのことです」

 カルアの何度目かの問いに、クレントンは同じ言葉で答えた。



「まったく、呼んだ本人が遅刻していては世話がないのう。教会の品が下がるというものよ」

 頬杖を突きながらカルアは嘆いていると、目の前の扉が開きユカが入ってくる。



「申し訳ありません、カルア様。わざわざこんな朝早くに来ていただいたのに、呼んだ私が遅れてしまい、謝罪のしようもありません」

 ユカは12階段の座の前にフワリと膝まづくと、謝罪の言葉を述べる。



「はああ・・、処罰は後で受けよ。それより、こんな朝早くに呼びつけたのは何だ。それもわざわざ謁見の間に来させるとは。また誰か来るのか?」



「はい・・。実はその前に、確認しておきたいことがありまして」

 ユカは頭を下げたまま口を開く。



「何だ?申してみよ」

 カルアの言葉に、ユカは頭を下げたまま話を始める。



「実は昨日、アトミラ円形闘技場にてある文書が発見されまして」

「ほう、文書とな。それがどうしたのだ」

「アカデミーの調査員もそこにおりましたが、教会に関係する重要な内容が発見されまして、秘密裏に文書を手に入れました」

「ほう・・。さすがだ。今回遅れたのは許さぬが、そういう小賢しい仕事はいつもよくやっている。して、内容は何だ?」

「数十年前に起きた竜名残惨殺事件についての内容です」

 ユカは話を続けながら顔を上げる。



「ずいぶん昔の事件だ。今更何だと言うのだ」

「はい、カルア様が黄の聖女に選ばれたころの事だと思われます。アトミラに教会支部を作られてある実験を裏で行っていたと」

「実験ねえ。そういえばやっていたような気がするな」

「やっていたんですね・・。それで、その合同の研究をテリート・ステイスという人物と行っていたとか」

「そんな男もいたかなあ。思い出した、金も出してくれたと思うぞ。面白みがないつまらん男だった」

「その研究が竜名残に関する内容だったと、文書には記されてあった。それが原因で竜名残惨殺事件が起きたという事ですか?カルア様」

「そうなんじゃないか?もう忘れたよ、昔の話は。とにかく、世に出ぬよう頼んだぞ。いちいち煩いからな民衆どもは。信徒どもの様に従順でいればよいものを」

「ではあなたが原因で、私の両親は亡くなったのですね」

「そういえば、お前の両親はあの事件で死んだのだったな。ま、運がなかったと思え。教会のために死んだと思うのだ。そうすれば浮かばれるかもしれんぞ」

「黙れ!!」



 ユカ・ローニスは叫ぶと、静かに立ち上がった。そして、片手を上げると、何人ものガーディアンが柱の陰から現れ、12階段の座を囲んだ。



「あなたに仕えている多くのガーディアンは、惨殺事件で大切な者を失っている人間が多い。まさか、その事件の首謀者を守っていたとは、とんだ喜劇だ」

 ユカは吐き捨てるように言った。



「どういうつもりだ、貴様ら・・。お前たちガーディアンの職務を思い出せ!聖女の身辺警護を特に優先せよと言い渡されたはずだ!!」

「あなたは裁かれるべきだ」

 クレントンの静かに言葉を発しながら剣を抜き、切っ先をカルアに向ける行為に、カルア自身が憤慨しながら叫ぶ。

「クレントン!貴様もか!お前ら全員!テラ教会に逆らうのか!」



 ユカは冷徹に、聖女カルアに言い放った。

「教会に逆らうのではない!あなたのような腐った人間を、我らガーディアンがテラの神の名のもとに、あなたに罰を与えるのです!」

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