第22話 迷いの朝に
工場の激闘からアトミラの町へと帰路についた。その途中、マーディ達とアティア達の2パーティは朝日が出る前のころ、草原の一本しか木がないその下で休息をとることにした。
「昨日の朝に作った物でよければどうぞー」
ロミ・クライセスは言うとリュックからカゴを取り出すと、蓋を開けて中にあるサンドイッチをパーティの面々に勧めた。
「では、遠慮なく貰おう」
ベレグラムが意外に一番乗りでサンドイッチを一切れ掴み取ると、さっさと小さな丘になっている一本の木の下で腰を下ろしていた。
「私も・・いい・・?」
バザ・ユガルタがもじもじしながら聞くと、ロミはもちろん!っと親指だけを立てて元気に返事を返す。そして、ぱーっと明るくなった表情でサンドイッチをロミから受け取るとアティアの隣に行き、リスの様にサンドイッチを食べた。
「私ももらうとするか。それにしてもそっちの3人はどうした?顔がげっそりしているぞ」
アティアはサンドイッチを掴みながら、マーディアス・グローにリーゴ・トミナ、そしてディミル・シューバートの3人がへたり込んで大地に座り込んでいるさまを見ながら言った。
「どうしたって昨日の朝から動きっぱなしだぜ。それに夜通し竜名残と戦ってたし。なんでお前らはそんなに元気なんだ」
リーゴは溜め息をつきながら言った。
「工場からも寝ないでアトミラに向かってるし。でもお腹はすいてるわ。ロミちゃん、一個貰うわね」
ディミルは言いながらサンドイッチをロミから受け取ると、口にゆっくりと運んだ。
「夜通し動いてるのも宿屋で寝たいってみんなの総意だもん。あとちょっとで町につくから。頑張ろう!」
ロミは言いながら、片手を上げる。
「ロミは元気だな」
マーディは言うとリーゴが付け足す。
「それだけが取り柄だからな」
「あんたは一言多い!」
口が減らないリーゴに、ロミはサンドイッチを強引にリーゴの口に入れてその原因を塞いだ。
「二人とも、少し雪解けした?」
ディミルはマーディとリーゴの様子を見て、二人に言った。
「別に、気に食わないのは変わってねえよ」
リーゴの変わらないセリフに、マーディは肩を竦める。そして、いつもの口調とは違う兆候をリーゴは覗かせた。
「だが、実力は認めているつもりだ。アカデミーにとっても、プラスになるしな」
「プラスか。とんでもないプラスだがな」
リーゴの言葉に、アティアが割って入る。
「お前らも、見たんだろ。マーディの実力を。あの片翼を」
挑発するようなアティアの物言いに僅かに気後れしながらも、リーゴは口に出した。
「ああ・・、見たよ。とんでもなかったな。正直、一介のアカデミーの生徒なんて目じゃねえ。神技使い・・恐ろしいよ俺は。お前が」
戸惑いの視線を送るリーゴに、マーディは同じく戸惑いの表情を作るしかなかった。
「それどころか、アカデミーの主力である戦術員も歯が立つことは無いだろう。ベレグラムも戦闘技術を抜きにすれば。魔法の威力だけならマーディの方がはるかに上だろうな」
アティアの言葉に同意するように、ディミルは言った。
「確かに。私も戦いながらあの姿を見たが、感動するほどだった。見惚れたよ、マーディ。アナタは奇跡そのものだ。本当に・・心からそう思ったよ」
「そうだろう、皆の衆よ。マーディ、お前はもっと偉そうにしていいんだぞ?ちなみに、私にはするなよ。むかつくからな」
「アティア、お前は本当に調子のいい奴だな」
マーディは立ち上がると、居心地の悪さから場所を移すように木の下に向かった。その向かう途中、後ろからアティアの言葉が聞こえた。
「なれろ、マーディ。その力を持つ限り、崇拝の対象からは逃れられんぞ」
アティアの言葉を無視し、マーディは兜を外して腰を下ろしているベレグラムのそばに行った。
「アティアは相変わらずだな。だが、言っていることは的を得ていることが多い。それがまた厄介でもある」
ベレグラムの話に、マーディは一息つくように言葉を零す。
「ええ、そうですね。だけど、俺は崇拝されるような、立派な人間じゃない」
「崇拝される側の中身なんて、誰も見ていない。崇拝する側が見るのは力だけだ。だからこそ分かり易い。しかしそれは、される側も同じことが言える。そう思うだろ?マーディ」
「俺にはわかりません」
ベレグラムの言葉に正直にマーディは返した。
朝日が昇り、すべてが影だった世界が、木の麓だけが影へと変わっていった。
マーディは日の光を浴びながら、自分に投げられた言葉にどう感じれば正解なのかわからず迷い続けていた。賞賛の言葉を浴びるのは誰だって嫌いじゃない。自分も少なからず優越感と言う感情があるのは認める所だ。だが、転生者として、神の如き力を持ち、何者かもわからない自分が、このまま力に溺れていくんじゃないかという恐怖感が常に付きまとうのだ。
自分を信じたくても、信じられる自分をまだ知らないのだ。どう生きればいいのか、迷いを捨てれないマーディだった。
「マーディアス・・」
ふと、声を掛けられているのに気が付くと、いつの間にかうつむいていたマーディは顔を上げた。すると、今は猫の仮面を横にずらした幼い顔で、バザ・ユガルタが目の前で立っていた。
「バザ・・、何か用か?」
マーディが元気なく言うと、バザは静かに口を開いた。
「悩む・・マーディアス・・。そんな時があれば、この言葉を言えって・・生徒会長が」
「生徒会長?」
懐かしい響きに、マーディは僅かに身を乗り出す。
「迷うときは・・生徒会長を思い出せ・・。私を信じろ・・。以上、生徒会長からのありがたいお言葉でした」
バザ・ユガルタは言い終わると、またアティアの元に帰っていった。
「相変わらず、変な奴だな。生徒会長は」
ベレグラムの言葉も気にならずに、マーディは独り言のように言った。
「なんだよそれ・・生徒会長。信じろか?自分も信じれないのに、あなたを信じるわけにはいかない」
マーディは立ち上がると、草原に朝の息吹を届けている太陽を睨みながら言った。
「あなたを信じられるように、自分を信じる。そのために、迷うのも悪くないか」
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