第20話 戦いの狼煙

 草原の先、煉瓦でできた工場が夜中の月明かりで遠くでも見えた。

 闘技場調査から次の日の朝、アトミラの町をマーディ達とアティア達の2パーティで再び別れて出発し、到着後に別方向で工場に侵入する手はずになっていた。そして、マーディアス・グロー、ディミル・シューバート、ロミ・クライセス、リーゴ・トミナの4人はアティア達の合図を待っていた。



「連絡はまだか」

 鎖鞭を持ちながら、リーゴは落ち着かない様子で言った。



「落ち着きなさいよ。今は待つしかないわ」

 そう言いながらも、ディミルはその手に持つ片手斧を時折空中へと回転させていた。



 マーディは腰に下げている霧の剣の柄に手を置き、武者震いする気持ちを落ち着かせる。震える手を目の前に持っていき、僅かに観察すると、深呼吸して力強く握った。



「来たよ!」

 ロミは武具転生で転送された文章を素早く読むと、パーティに内容を伝える。



「合図は派手にくるって!」

「なんだよそれ、どうせアティアが記した文章だろ?わけわかんねえな相変わらず」

 リーゴが文句を垂れていると、工場から大きな爆発が起こる。



「合図、来たみたいね」

 ディミルは空中に舞っていた片手斧を勢いよく掴むと言った。



「行くよみんなー!。あと、工場の中にいた人間は全員竜名残の魔物になっているとのこと。遠慮なく、一匹残らず討伐しろってさ」

 ロミは両手にナイフを持ちながら言った。



「了解した」

 マーディは返事すると、パーティの4人は工場に侵入した。



「おうおう、もう戦ってやがる」

 煉瓦の壁越しから爆発した煙が舞っている場所を覗くと、ベレグラムが丁度竜名残の人型の魔物を蹴り上げていた。



「よし、行くぞ!」

 ディミルの言葉の合図に、4人は戦場へと駆け出した。



 歪に変形をしている体で何十体もの竜名残の魔物の集団がいる右側に陣取ると、ディミルは魔法の準備段階であるマカイを唱える。



「過ぎたる楽園の夢」

 ディミルは自分の魂が魔力放出にシフトした感覚を得る。



「一番手、行くわよ!」

 ディミルは片手斧を構えて、技を繰り出す。



「戦斧、回転殺法」

 ディミルは片手斧を投げると、その斧が回転しながらディミル自身の周りを回りながら広がっていく。そして、次々と魔物たちを薙ぎ払い、集団を左側に押し込む。



「2番手、いっちょやるか」

 リーゴは鎖鞭を持って集団の左側に陣取り構える。



「解き放つ誓い」

 マカイを唱えると、リーゴは鞭を持っていない手で鎖を掴む。



「燃え盛れ!炎の鞭!」

 リーゴは叫ぶと、掴んでいる鎖が赤く染まり、やがて炎となる。その燃える鞭で竜名残の魔物たちを薙ぎ払っていく。そして、魔物たちは右側に押し込まれ、密集した塊を作る。



「3番手!ロミちゃん行くよー!」

 ロミは言うと、即座にマカイを唱える。



「ミラクル最強ハート!」

 魔法の準備段階を終え、ロミは両手にナイフを持ち、技を放つ。



「泥の箱、飴玉の乱れ撃ち!」

 ロミは二本のナイフを魔物の集団に放つ。そして、そのナイフを放った二つの手の平から泡のような、シャボン玉に似た塊が竜名残たちの足元を襲う。そして、竜名残の魔物たちは割れた泡から漏れた粘着質の液に身動きが取れなくなる。



「出番よマーディ!」

 ディミルは叫ぶと、マーディも大きな声で答える。



「わかっている!4番手!ラストいくぞ!」

 後方に待機していたマーディは体から虹の光を放つ。まばゆい光がまるで風に乗る様に散っていき、虚空に去っていく。



 マーディは霧の剣を抜き、魔物の集団に駆ける。そして、より一層虹の光を出すと、その勢いを利用して自分もろとも魔物に突っ込む。



 光の柱と共に、その中心にマーディが立っている。その周りを囲むようにして魔物たちが倒れていた。



「よし、うまく作戦通りいったな」

 マーディは安堵したように言う。



「きー抜くんじゃねえぞマーディ、まだ魔物は残ってるぞ」

 リーゴの言葉に、いつもの悪態とは違う真剣さにマーディも力強くわかってると言って返事をした。



「次の手はあるのか?」

 マーディが言うとディミルは自信満々に答える。



「そうね!あとは各々各個撃破って所かしら」

「それってつまり自由に戦えって事か、了解した」

 マーディ達は格闘スタイルで戦っているベレグラムに混ざり、魔物たちを倒していく。



 順調に数を減らしていく竜名残を振り払いながら、人型とは違う、犬の形をマーディは探していた。どこにも見当たらず、工場の辺りは人型ばかりで犬の形を全く見ず、それらしい獣一匹見つけられなかった。



 マーディはだんだん魔物の数が減っていくにしたがって、焦ったのか強引に魔物が数匹いる集団に割って入り、周りを強引に見渡した。



「くそ、どこにいるんだ」

 マーディは首を振ってきょろきょろ見回していると、後ろから魔物の唸り声が聞こえる。その音に反応できず、神技の発動も間に合うかどうかの危険な瞬間だった。



「何やってやがる!」

 マーディの背中を庇うようにして、リーゴが鎖鞭で魔物の襲い掛かる手を受け止める。そして強引に鞭で弾いた。



「いくら神技があっても、隙だらけの背中で受けると死ぬぞ!ぼーっと辺りを見回すだけじゃなくて、ちゃんと魔物を見ろ!」

 リーゴの怒鳴り声に、マーディは深く反省する。



「すまないリーゴ!もっと集中する」

「そうしろ。じゃないと俺の仕事が増えるからな。それに、神技使いに死なれちゃ同じパーティメンバーだからって何言われるかわかりゃしねえ」

 リーゴは言いながら鎖鞭でもう一度向かってくる魔物に放つ。するとその魔物は一瞬動きを止め、その隙にマーディが霧の剣で止めを刺す。二人の連携技で残りの竜名残の魔物も討った。



「やればできるじゃねえか。最初からやってほしいものだがな」

「一言多いぞ、リーゴ」

 マーディの指摘に、そういうタチなんだよ俺はと軽口でリーゴは返答した。



「マーディ!リーゴ!いよいよ本命がご登場だぞ。ついて来い!」

 アティアが工場の建物の屋根から二人に伝える。その言葉にマーディとリーゴは顔を見合わせると、アティアについて行こうと駆け出した。

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