第16話 静寂の闘技場
マーディ達一行がアーチ状の入り口を抜けると、2階席まである客席に囲まれたアトミラ闘技場の巨大な試合会場に入った。
聖女カルアに謁見した次の日、アティア達のパーティには
案内役のユカ・ローニスが先に闘技場に来ており、砂地の試合会場の中心で立っていた。マーディ達に気づくと来ていたマントをくるりと半回転させながらこちらに向き直った。
「朝早くからの調査、大変ありがたく思います」
ユカ・ローニスは軽く頭を下げて言った。
「すごく大きな建物で驚きました」
マーディは素直に驚きながら言った。3階建ての石造建築で、建物が円を描きながらこの砂地の試合会場を囲んでいた。円形闘技場としての役目を何十年も前に終えているのであちこちが痛み欠けていたが、その偉大さはまだまだその風格を失わせていなかった。
「久しぶりに来たけど、やっぱり圧倒されるわね」
ディミルは言うと、ユカは僅かにほほ笑んだ。昨日の酒場での場で同じ同郷として話を咲かせた二人だった。
「魔法アカデミーにある闘技場もでかいが、やっぱり本場は違うな。雰囲気がでてる。ちょっとぼろっちーけどな」
リーゴは体を回転させて辺りを見回しながら言った。
「リーゴは一言多いのよ。今は国に歴史的価値を認められて保護の対象として、立派な遺跡として認定されてるのよ。すごいここにはロマンが詰まってるの!」
両手広げながら、ロミは興奮して言った。
「さあ、見学だけでもしていられません。地下に向かいましょう」
ユカは言うと、唐突にしゃがんだ。
「ユカさん?」
マーディは不思議そうに言うと、ユカは砂に埋まっている鎖につながれた輪っかを思いっきり引っ張る。すると、試合会場の一部が唐突に割れ、そこに地下へと続く階段が現れる。
「すごいからくりだな」
リーゴは感心して言った。
「魔法の匂いがするね。砂のカモフラージュも魔法がいちいち煉られてる気がする」
ロミは興味深そうに呟いた。
「お前はそうやって色々小細工するの得意だもんな」
リーゴは言うと、言い方!っとロミは怒る。
「さあ、みなさん。行きましょう」
ユカを先頭に、マーディ達は慎重に階段を降りていく。
砂埃を嫌い、片手で顔を覆いながらマーディ達は降りていくと一つの扉があった。ユカは黙って扉を開けると、何もない石壁の空間がある。
「ここまでは我々も先に調べています。しかし、この先が行けないのです」
ユカは言うと、手にしていたカンテラである一方の空間を照らした。
そこにはまた扉があった。先ほどの簡素な扉とは違い、細かい彫刻が施されていた。
「たしかに、虹のように見える光が表現されてると見えなくもないわね」
ディミルは淡く浮かび上がっている壁の彫刻に、正直な感想を残した。
「でも、これだけで神技使いを呼んだのか。こいつ、記憶がないんだぜ。どう調査するんだ」
リーゴが当然の疑問を話す。
「それはわかりません。この地下は最近発見されたものですが、つい先日教会本部より依頼の命令書が送られてきたのです。もちろん、地下の調査概要は本部に報告しておりましたが」
「その命令書が、マーディ君を闘技場に派遣せよ!って依頼だったのかな」
ロミが言うと、ユカはこくんと頷いてはいと返事をした。
「ちょっと押してみるか。開かないんだったか」
リーゴは言うと扉を押してみたが、微動だにはしなかった。
「では、マーディさん。あなたが開けてみてください」
ユカの言葉に、マーディはわかったと言うと扉の前に立つ。
「じゃあ開けてみるぞ」
マーディは周りの緊張と期待を背負いながら、扉に力を入れた。
「おいどうした、やっぱり開かないんじゃないか」
リーゴは動きが止まっているマーディに思わず話し掛けた。マーディはその言葉に反応せず、ただ、呆然と扉を触っていた。
マーディは突然襲ってきた懐かしい気分に戸惑っていた。まるで、古い友人に出会ったような、昔から慣れ親しんでいた家に訪れたような、そんな気分だった。それは、故郷そのものだった。或いは、それに似ていた何かか。どちらにしても、記憶はなくとも、心は揺れ動かされていた。
「マーディ、なぜ泣いている?」
ディミルはマーディの頬に伝う一筋の涙に、驚きを隠せなかった。
「わからない」
マーディは言うと、両手に力を入れてその扉を開けた。
「おいおい。開いちゃってるじゃねえか」
リーゴは半ば呆れたように言った。
「すごい・・、本当に扉を開けるとは。神の力を操りし転生者と言うのはは、本当のようだな」
ユカは瞳を一瞬見開くと、刹那が過ぎた瞬間には細めながら呟いた。
「さあ、入ってみようか。一応慎重にね」
ディミルは言うと、ユカに渡されたカンテラで照らしながら扉の先にある一室に入り、皆もそれに続いた。
「金銀財宝とか期待しちゃったけど、書物ばっかりだね」
ロミがつまんなそうに部屋に積み上げられた書物の山を見ながら言った。
「現実はそんなに甘くないのか。しかし、書物を調べるのは俺たちの仕事なのか」
マーディは一冊の本を手に持ちながら言った。
「いいえ、それ専門の調査隊をまたアカデミーから派遣しないとね」
ディミルは言うと、間髪入れずにリーゴが言った。
「専門の知識がない俺でもこれはわかるぜ」
リーゴはその手に持った比較的新しく見える一つの紙を持ち上げて、皆に見せるようにして言った。
「テリート・ステイスのサインが入ってる。はは、こりゃヤバい代物だぜ。こんだけでかい成果がありゃ、来年は進級査定もパスできるかもな」
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