第15話 聖女カルア
教会の中はベンチタイプになっている長椅子が左右に何十個も並べられていた。両サイドの壁には鮮やかなステンドグラスの窓があり、天井からぶら下がった燭台のロウソクの明りがほの暗さを強調していた。
講壇の脇にある扉にユカ・ローニスが向かい、こちらですと言うと扉を開けて中に入った。マーディ達4人も案内に従って奥に入っていく。角になっている廊下を曲がり、もう一つの黄色い扉を開ける前に、ユカは言った。
「こちらが謁見の間です。
ユカ・ローニスは静かに扉を開け、再びマーディ達はユカに従って扉の先に行った。先ほどと違ったのは、皆それぞれの緊張が走っていたことだ。
「この度は急な謁見に承諾いただき、ありがとうございます。こちらにいらっしゃいます4人が魔法アカデミーから任務を受けて来られた者たちでございます」
ユカ・ローニスは淡々と話す。緊張した面持ちで4人は片膝をついて言葉を聞いていた。(謁見の作法は教会に入る直前にディミルからマーディは聞いた)
「そう」
興味なさそうに、12段になっている謁見椅子に座っている聖女カルアは言った。
「つきましては。教会本部からの任務依頼という事もありまして、カルア様からお言葉を直に頂戴したいと思いまして」
「我からは何もない。かわりにユカがやっておけ」
聖女カルアは欠伸をしながら言った。軽い態度とは別に、聖女の黄色い正装の上から煌びやかな装飾を身にまとっていた。顔の雰囲気から歳の積み重ねを感じるが、その身のこなしや態度からは幼い印象をマーディは感じ取っていた。
ユカは顎を下げて言った。
「わかりました。仰せのままに」
「そういえば、神技使いはおられるのか?」
カルアの言葉に、マーディは反応する。
「はい、私です」
「そうかお主が。年も若いのう。どうだ、今から酒でも飲みにいかんか?」
「私が、ですか」
「そうだ、お主に言っておるのだ」
「カルア様。あまり神技使い殿を困らせないようにお願いします。アカデミーから遠路来てくださった直後です。今夜はゆっくり休んでもらい、任務に励んでもらうのがよろしいかと」
「わかったわかった。ユカは相変わらず硬いのう。面白くないわ」
「恐れ入ります」
カルアの言葉に、深々とユカは頭を下げて言った。
「これにて謁見は終わりじゃ。ユカ、後はお主に全て任せたぞ」
「了解しました」
頭を下げたままユカは返事をする。その様子をカルアは一瞥すると、視線を謁見椅子の階段下で待機していたガーディアンの一人に話しかける。
「今日もお前が付き合え。クレントン」
カルアは言うと、ガーディアンの若い男と奥の扉に消えていった。
***
教会から次に案内された宿屋に併設されている酒場で、マーディ達4人とユカ・ローニスが一つのテーブルを囲んでいた。
「ユカさんの前で言いにくいんだが、あれが聖女か」
リーゴ・トミナはステーキを頬張りながら言った。
「リーゴ君。ここはアトミラで、教会の影響下だ。せめてぼかしながら言ってもらいたい」
ユカの冷静な言葉に、リーゴは平謝りする。
「もうリーゴったら。でも、色々言いたくなるのもしょうがないとは思う。私たちへの態度と言うより、ユカさんへの態度もちょっとどうかと思ったし」
ロミ・クライセスは言うと、半分に切ったトマトを大きな口を作って中に入れた。
「みんな落ち着きましょう。教会の中でも厳しい修行や飛びぬけた才能の頂点の、その先を行った人たちの集まりだから。個性的な人たちの集まりになるのは必然かもね」
ディミル・シューバートは擁護しているようでしていない内容を話す。
「圧力をかけてこないだけましと思うけどな。まあ、ユカさんの立場もあるし、この話は終わりにしよう。それより、明日から任務の開始をするのか?」
「お前が仕切るのかよ」
リーゴの言葉にロミはそのリーゴの余計な事を言う口に、半分残っていた残りのトマトを放り投げて塞いだ。
「そうしてもらえるとありがたい」
ユカは相変わらず無表情で言った。
「まずはどうしようか。
「そうしてもらおうぜ。闘技場地下の方は神技使い様に見てもらいたいって任務概要にも書いてあったしよ」
リーゴが気に食わないように言った。
「そうだな。では明日は闘技場地下に向かうとするか」
マーディは言うと、リーゴ以外のテーブルの人間が頷いた。
「そういえば、闘技場って今はやってないとか?」
「そうです。闘技場を運営していたのは50年以上前のことだと思います」
マーディの問いに、ユカは答える。
「何で今は運営していないんだっけか」
ハムを上に持ち上げ、口を下にして下品な食べ方をしながらリーゴは言った。
「何をおっしゃいますか。それはみなさんが原因ですよ」
ユカは当然のように言った。
「俺たちが原因?」
首を傾げながらマーディは言うと、ユカは肩を竦めながら言った。
「正確に言うと、皆さんの先輩方です。竜を倒した英雄12人は全員アカデミー出身でしょう。彼らが闘技場を荒らしていったのは有名な話ですよ」
「確かに、そんな内容の話を聞いたことがあるわ。ってなると、今後荒らしそうな実力のある人間が、ここに一人いるわね」
ディミルの言葉に、全員の視線がマーディに集まった。
「勘弁してくれ」
マーディはぼやくように言うと、ヤケクソの様に豆の入ったスープを一気に口に運んだ。
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